遅い出発
台風接近で朝から雨です。朝は宿でゆっくりしました。普通は宿でとらない朝食も,どうせ早立ちはできないと思って,宿でとりました。
9時,ポンチョをかぶって出発しました。風もだんだん強くなってきています。靴はすっかり乾いていて気分はいいのですが,膝の痛みは全然治まらず,気持ちが沈みます。特に,ユースホステルを出てすぐの急な下り坂がたいへんでした。
雨から風へ
ポンチョをかぶって出発したけれど,すぐ脱ぐことになってしまいました。風は強くなってきますが,雨は弱くなってきました。雨が風で吹き飛ばされているという感じの天気です。ポンチョをザックにかぶせて歩く③のスタイルに変更しました。台風は四国を直撃する向きに進んでいます。今日は風がだんだん強くなりそうです。
前回休んだ木陰
歩いていると,前回の5年前の記憶が蘇ってきます。場所によっては5年前とは思えないぐらい鮮やかに覚えています。
5年前は熱射病になりそうな暑い日の連続でした。自販機と日陰をさがし,水分補給と休憩を頻繁にとらなければ歩きつづけられませんでした。今回とは大違いです。
県道の緩い坂道を下りていくと,ゆったりとカーブしているところで,前回やっと見つけた木陰で休んだことを鮮やかに思い出しました。
5年前なんてつい昨日のことのようだ,そんなことを思うと時の経つのがいかに早いか思い知らされます。
逆打ちのへんろマーク
今回のへんろで始めてみました。逆打ちは道に迷いやすくてたいへんだといわれます。逆打ちさんにはたいへんありがたいマークです。でも,順打ちのわたしは何度かどきっとしました。道を間違えたかと思ったからです。
覚悟はしていたけれど,急な坂道と階段
52番「太山寺」は山門からがたいへん,前回の記憶が鮮明にあったので覚悟はしていました。でも,記憶以上にずっと長く,きつい坂道でした。
下るときが上るときより痛くてたいへんです。びっこを引きながら下っていくと,下から勢いよく若者が上ってきました。下を見ずにひょいひょいと足を運んでいます。あれが健全な歩き方なんだ,そう思うと情けない思いがしてきました。
境内でお接待
接待所が境内にあり,地元の方がたくさん詰めておられました。写真を撮っていると声をかけられました。お接待しますから,休んでいってくださいと言われ,お世話になることにしました。
久しぶりにところてんを食べました。それに加えておにぎりと,唐揚げをいただき,ちょうどお昼近くなっていたのでたいへん助かりました。感謝,感謝です。坂がきつくて愚痴をこぼしながら上ってきましたが,罰当たりなことを口走ってしまったと反省しました。
後で反省しても,それは後の祭りなんですけれどね。ごめんなさい。
豊後水道に入ってきたらたいへんだと思ってました。
納経所のおかみさんが,
「台風はちょっと南の方にそれたみたいですよ」
そう教えてくれました。やっぱり高知・徳島方向に向かっているようです。高知の人には申し訳ないけれど,おかみさんとともにわたしもちょっと安心しました。
野宿
53番「円明寺」で京都から来ている歩きへんろさんと出会いました。大きな荷物を持っています。野宿もするおへんろさんです。野宿をするおへんろさんは荷物を見ればだいたい分かります。
わたしはまだ一度も野宿をしたことがありません。その勇気がなく,踏ん切りがつきません。
野宿をしない歩き遍路はどうしても宿に縛られてしまいます。今日明日の宿をどうするかが大きな心配事になり,計画も宿に左右されてしまいます。その点,野宿を覚悟すれば一気に自由になります。
以前出会ったおへんろさんにも言われました。
「野宿はいいぞ,どこまで歩くか自由だからな」
今回あったおへんろさんは,
「今日の宿はもう決まってるの。それは手回しのいいことで」
そんなふうに言われました。その人は,ここからあと10kmぐらい歩いてから決めるようです。宿がとれれば宿に入るし,とれなければ野宿ということでしょう。わたしもこういう行き当たりばったりに憧れますが,そんなふうにはできません。前日には宿を決めておきたいと,心配になってしまいます。
海岸道路,激しい風,いよいよ台風
松山市街を抜けて伊予北条に至る道は海岸沿いの県道です。雨も風も強くなってきました。ポンチョをしっかりかぶって上半身を守ります。日差しはなくなったので蒸れることはありません。逆にポンチョの保温性のうが効果的に体を守ります。
でも,下半身はずぶ濡れ,靴の中はすっかりぐちょぐちょになってしまいました。
風もどんどん強くなってきます。傘は風に煽られて役にたたなくなりました。ザックに縛りつけて,ポンチョでカバーしました。
風向きは向かい風でした。前傾姿勢で,風と闘うような気分で歩きます。「どうして向かい風なんだ」とも思いましたが,うしろから吹いてくる風の方がより危険かもしれません。
でも,台風の風は突然向きが変わったり,突然強くなったりするので中止しなければなりません。ときどき突風が吹きます。油断していると,車道側によろけそうになることもありました。
北条水軍ユースホステル
前日の松山ユースホステルとはまったく違いました。ほとんど民宿,アットホームな宿でした。
外見も民家とほとんど変わりません。2階に上がる階段の前に大きな犬,ゴールデンレドリバーがごろんと横になっていました。近づいてもびくともしません。またいで2階に上がりました。
ご主人は,世話好きな方だと見ました。ただ,ちょっと自己主張の強い方で,何でも断定的にいいます。
「明日は,朝は絶対だめだね」
台風が接近していて,朝,最接近のタイミングです。でも,進路が室戸の方へ逸れていったので,わたしは朝は大丈夫じゃないかと思っていました。
「午前中は,宿でゆっくりしていた方がいいよ」
オーストリアの高校生
夕食でいっしょになったのは背の高い西欧人でした。
「この人もおへんろさん」
ご主人が紹介してくれました。
「昨日から泊まっていて今日で2泊目。ゆっくりしているよ」
日本語はほとんど分かりません。覚束ない英語で話しかけてみました。正に覚束ないのでほとんど通じませんでした。松山からここまで歩いてきたようです。そして,明日はどうするかと聞いたら,
「ステイ」
どうも,もう1泊するようでした。
本日の歩行距離 22.9km