7月28日(火)切幡寺から逆打ちルートで霊仙寺へ。


父と息子と娘


 親子だと思います。3人のおへんろさんと食堂でいっしょになりました。昨晩の夕食も隣でした。名古屋市東区から来たそうです。

「わたしも愛知県です。豊明市ですが分かりますか?」

 というと,お父さんは分かったようです。子どもたちには分かりません。お父さんは,

「ほら,競馬場のある・・・」

 と言いました。子どもたちは「ああ」と言って顔をほころばせてうなずきました。

 だからといってギャンブル好き家族というわけでもありません。中京競馬場は公園でもあります,・・・ので。


道端であった仙人のようなおじさん


 宿をでですぐの交差点で出会いました。行く方向は反対でしたが,しばらく立ち止まって話が弾みました。

  山道のメンテナンスをしているそうです。

 台風や雨で山道はすぐに荒れます。今回のへんろでも倒木や崖崩れなど頻繁に目にしました。大きな木が切って除けてあったり,落ち葉が寄せて片付けられていたりと誰かが修復してくれたあともありました。このおじさんもそんなことをしているようです。

「地元は大阪だけどほとんど帰ったことがない。山道に入るとやることがいっぱいあるから、普通に歩くよりうんと時間がかかる。で,何でもないときに普通の道を何回も歩いて貯金しておくんだよ」

 分かるようでよく分からない話でしたが,たいへんでありがたいことをしてみえるんだなということは分かりました。

 とても面白い形をした杖は,拾ってきて自分で造形したそうです。持たせてもらったらずいぶん思い杖でした。

「これを持って、鍛えながら歩いている。平均で日に40km歩くよ。以前は50や60歩いたこともある」

 すごい人でした。わたしはとてもそんなに歩けません。


復興税の話


 おじさんは,復興税と地方交付金のからくりについても話してくれました。

  東北の震災の復興で日本人全員が課税されています。関係ない人も課税されているわけで,それだけだと税金を取られるだけの地方の人が治まりません。

 それで政府は,地方に金をばらまきます。

 お前たちにもちょっと分け前をやるから復興税に協力しなさいというわけでしょうか。地方としては使い道が明確でない臨時収入が入ることになります。それで突然立派な道路ができたり,箱物ができたりするということです。

「へんろ道の整備に使われたりすることがあるよ。でも,本当に必要な補修に使われるわけではなくて,突然新しいへんろ道ができたりすることもある」

 そんな話でした。おじさんはいろいろなことを知っていました。


ちょっとだけ逆打ち


 10番の近くから1番に歩くことになるので逆打ちルートになります。実際にお寺を打つわけではありませんが,逆打ちに雰囲気だけは味わってみようと思いました。

 逆打ちは迷いやすいと言われますが,本当にそのとおりだと思いました。

 9番の法輪寺に向かって県道から離れて歩き出したのですが,右折するところを見失い,まっすぐ歩いてしまいました。  

 幸い,法輪寺は田んぼの真ん中,遠くからでも何とかみえるところにあるのでルートの修復は何とかできました。

 でも,これが建物が建て込んでいたり,道路が複雑に交わっていたりしたらそんなに簡単には戻れなかったと思います。 


街中でもっと迷いました。


 3番の金泉寺は住宅地の中にあります。古くからある田舎なので道路が狭く,不規則に入り組んでいます。

 確実に近くに来ていて,残り200m程度だろうというところで完全に道を見失いました。

 勘で右へ曲がったのがまちがっていると,もう東西南北が分からなくなります。

 勘の勘でもう一回曲がったりすると地図上の自分の位置が全くわからなくなります。

 そんな状況で,作業をしていた人に道を聞きました。「金泉寺はまっすぐですか?」と。

「俺たち,土地のもんじゃないから,分かんね。ごめんな」で,万事休す。


 途方にくれていたら,順打ちのおへんろさんが正面から歩いてきました。

 この人も間違いなくお大師さまでした。

 今まさに金泉寺からやって来たおへんろさんで,果たして金泉寺は彼の背後の道を左に折れたすぐそこにありました。 


 逆打ちは本当に難しい。


ヤマハのオフロード


 金泉寺境内では,バイクで回っている女性と話をすることができました。野宿をしながら回り,8泊で高野山まで行くそうです。

「高野山のふもとに泊まって,高野山に向かって走るのが好きなんです」

 野宿の経験がわたしにはありません。野宿をしたいと思っていますが,その勇気がまだありません。それに,野宿のノウハウもまだ分かりません。

「野宿をしてみて,ストレスがなくなりました」

 わたしには未知の経験,たいへんうらやましい体験です。


風が吹いてきたときの心地よさ


 暑さにへろへろになって,日陰に腰をおろします。汗で白衣も下着もぐっしょり,頭の中に熱気が充満しているような状態で休憩します。靴と靴下も脱ぎます。

 日陰に入った体はスーッと冷えていき, 体が休まります。

 そんな時は冷房なんてなくてもいい。木陰の冷気が最高のごちそうです。

 そして,どこからともなくやわらかい風がふっと首筋を撫でていきます。そのときの心地よさは言葉にできません。

「なぜこんな暑いときにへんろに出るかというと・・・,暑いからです」

 バイクの女性もわたしも,この点に関してはまったく同意です。


なぜ,レイン・ポンチョを


 霊仙寺駐車場に女性へんろのバイクが止めてあったので,“盗撮”させていただきました。荷台に大きな荷物がくくりつけてあるのを見ると,野宿だと,持ち物も最小限というわけにはならないんだろうなと思いました。

 歩くのは残りは板東駅まで,もうほんのわずかです。

  土産を買った店で必要のない荷物もいっしょに家に送り返しました。そのとき迷ったのがレイン・ポンチョです。




 そして,結局レイン・ポンチョは送り返さずに残すことにしました。なぜ?

  あとでゆっくり考えたらポンチョなんてまったく必要ありません。

 歩かないのだし,山道に入っていくこともないのだから,・・・。

 仮に雨が降ってもコンビニで傘買ってさせばいいわけです。

 だいたい,ほとんどが車中なのだか,たぶんそんな必要もないと思います。でも,残しちゃいました。

 それは,4年前の日和佐でのことがトラウマになっているからです。レイン・ポンチョを送り返した直後にどしゃ降りという体験をしました。