8月14日(火)

民宿叶崎 土佐清水市大津
民宿叶崎 土佐清水市大津

 

民宿叶崎と夫婦へんろ

 

 朝食5時50分。奈良から来たという夫婦の若いへんろといっしょだった。中村行きのバスとか,宇和島までもバスで来られるとか,いろんな路線のことをよく知っていた。

月灘海岸
月灘海岸

 「今日は宿毛まで行く。」という。自分の計画ではその手前だったが,結局この会話が原因で,宿毛まで行くことにした。結果的にはよかったと思う。
 この夫婦の女性,前の学校の某先生に極めてよく似ていたのにびっくりした。顔立ちが似ていたのだが,話し方もそっくりだった。「愛知県に親戚の人はいませんか。」と聞いてみたい誘惑に駆られた。
 6時15分に出立。夜半は風雨の音が激しかったが,とりあえず晴れていた。30分ほど歩いた月灘というところで接待を受ける。バナナとリンゴをもらったのだが,これが実に力になった。特にバナナ。叶崎の民宿で接待されたおにぎりといっしょに食べた昼飯は本当においしかった。この人も御大師様だったんだろうな。

沢ガニ 月灘海岸へんろ道で
沢ガニ 月灘海岸へんろ道で

 

 

マムシと月山神社

 

 墓地が集まっているところから,へんろ道にはいる。入ったはなは石垣のかべにカニがサワサワとせわしく動いている程度で,のどかでよかったのだが,山の中に入ったらそのブッシュは半端ではなかった。蛇がささっと目の前をよこぎるかと思ったら,マムシがじぃっとこちらを睨み行く手を遮る。

まむしも出た月灘海岸へんろ道
まむしも出た月灘海岸へんろ道

マムシは気丈だな。金剛杖でちょっとばかり脅してもびくともしない。じぃっとこちらを睨んでいる。自分の戦闘能力に自信があるんだろう。「来るなら来いっ。」て,ね。でも,それは間違い。"人間"には勝てないって。そんなに突っ張っていると,マムシ酒にされてしまうぞ。(わたしの祖父は,マムシ酒をしょっちゅうのンでいた。)
 そうは言うものの,マムシは怖い。金剛杖でブッシュを探りながらの前進。あんまり下を向いてばかりだと,へんろ札を見失ってしまうから,下を向いて,上を向いて,下を向いて・・・・・・,なかなか大変である。しかも不意打ちの蜘蛛の巣もあったりで,雨上がりの山道は4倍ぐらい気をつかう。

月山神社 幡多郡大月町
月山神社 幡多郡大月町

 「足摺を打ったら,月山詣りを終えて延光寺を打つ。」というのが,本来のへんろであると聞いて,こっちまで来た。が,"月山"って,これか?が正直の感想。「月山,月山ってみんな言うけれど,ひどいところらしいですよ。よっぽど叶崎観音の方が立派ですよ。」と言っていた,民宿叶崎の女将の言葉がよみがえってきた。裏山に何かあるのかと思って登ってみたが,何にもなかった。ほんとうに,これが月山神社か!

道の駅「大月」のへんろ休憩小屋
道の駅「大月」のへんろ休憩小屋

 

 

靴下を替える

 

  "道の駅大月"で靴下を替える。月山神社参詣の後また土砂降りにあい,ずぶ濡れになった。上衣もズボンもどれだけ濡れても平気である。靴もゴアテックスで雨水がしみこむことない。しみこむことがないはずだが,靴下はどうしてもちょっとずつ湿ってくる。雨滴が隙間から入ったりするんだろう。湿り気は足のまめの原因である。
 靴下を換えた後は快適だった。
 "道の駅すくも"でピーナッツとチョコレートで栄養補給する。チョコレートは溶けきっていたので,嘗めた。真夏の非常食としては,エネルギー的にはどうあれ,チョコレートは不向きである。2階づくりの立派なへんろ休憩所だった。写真を撮るのを忘れ,ちょっと後悔している。

 

 

宿毛市歴史保存協会

 

 宿毛市のコンビニ前で歴史保存協会のおじさんにつかまった。
「へんろさん,へんろさん。こっちだよ,へんろ道は。みんな県道の方を教えるけれど,私たちは郷土の歴史を研究しているんでね。絶対に山道を薦めるんですよ。最初の上りはちょっときついかもしれないけれどね。ずううっと木陰が涼しくてね,目にも体にも足にもいいのは,山ですよ。この先貝塚のところから入るんですよ。へんろさん,地図を見ていたよね。だから,教えてあげようと思ってね。」
「ああ,ありがとうございます。わかりました,わかりました。」
私が目指していたものはへんろ道ではなく,目先のコンビニだった。早くコンビニの冷気がほしかった。
「県道はだめですよ。この先信号を直進して,・・・・・・。」
「そうですか。わかりました。」
ていねいに教えてくれるが,私が目指すコンビニはそこに見えている。その次に目指す宿ももうちょっとである。もう結構遅い時間なのに,山越えをしようとしているように見えたんだろうか。
「このあたりの地はね,その昔大化の改新のね,・・・・・・。」
大化の改新まで歴史がさかのぼってしまった。大化の改新の時代にへんろ道があったんだろうか。
「・・・・・・,大化の改新・・・・・・,大化の改新・・・・・・。」
大化の改新という言葉が頭の中をぐるぐる回る。話が終わらない。アクエリアスが飲みたい。クーが飲みたい。
「ありがとうございます。・・・・・・,ありがとうございます。」私にはこの言葉しかなかった。言葉というものは未熟なものである。今の私の気持ちをおじさんに伝える言葉が一つもない。特に"親切"に対抗する有効な武器を私は持っていない。

岡本旅館 宿毛市中央
岡本旅館 宿毛市中央

 

 

岡本旅館

 

 岡本旅館のおかみさんがいろんな話をしてくれた。最近の世の中や若者に憤りを感じて見えるようだ。夕食はカウンターで,わたし一人だった。
「先生も大変でしょう,今時。いろんな親がいるし,いろんな子供がいるし。考えられないような親がいるんですよね。・・・・・・。」
「明日は主人の初盆でして。一人で山へ行ってイノシシを撃ってきたり,丈夫で元気な人だったけれど,逝くときはあっという間でした。リンパの癌でした。」
「蛇だけは主人もだめでした。わたしもですけど,この時期は山には入れません。へんろさんは大丈夫ですか?」
「最近自殺する人が多いですよね。それも何か,自分勝手な。後のことを考えない。」
電話で予約したとき,「好き嫌いはありませんか?」と聞かれたことに,好印象を持った。