新神戸駅
新神戸駅に降り立ったのは,前日の4日でした。17:25発の高速バスで徳島入りします。徳島駅着まではおよそ2時間かかりました。
6年前も同じルートで徳島入りしました。そのときの写真を合成してみましたが,どうでしょう。歳を重ねて真理に触れ,成長したところ,そんなものがちょっとでも感じられるでしょうか。駅舎は,「新神戸駅」から「SHINーKOBE STATION]と,グローバルスタンダードになっていました。
お酒
徳島の夜は大学の同級生と久しぶりにお酒を飲みました。同級生と,というのももちろん久しぶりですが,お酒を飲むのも久しぶりです。3年前までは,毎日飲み,飲まないと眠れないと思っていました。今でもお酒は嫌いではありませんし,医者から止められているわけでもありません。しかし,飲まない方が快適であるということが,いろいろな意味で分かりました。従って,今では付き合いで飲む以外は飲みません。
何よりも,お酒は貴重な時間を奪います。私にはやりたいことがいっぱいあります。お酒なんか飲んでいられない,と今では強く思います。
阿波踊り
「毎日,練習しているんよ。”連” によっては一年中練習するところもあるんよ」
同級生が言いました。市内駅前を流れる新町川の河川敷公園でたくさんの人が練習していました。それぞれ仲間ごとに集まって練習しています。そうした”連”があっちにも,こっちにも,活気を競うように練習していました。どの”連”も真剣そのものです。
私には,複雑な動きには見えません。阿波踊りを踊ったことのない者の浅はかさというべきでしょう。
四国は水不足?
四国は小さな島(失礼)だから,水不足になりやすいのだな,それが6年前にきたときに思ったことでした。板東駅から1番に行く途中に川を渡りました。その川が水涸れだったのです。
ところが,6年後の今年もやっぱり川には水が流れていませんでした。前回は全国的に水不足の夏でしたが,今回はそんなことありません。
「この川は,もうずっと水,流れてないんですよ」
通りかかった散歩の女性が教えてくれました。
百聞は一見にしかず,といいますが,百見だって,一聞にかなわないこともあるようです。
納経帳
2巡目は,妻も一緒に背負っていこう,そう決めました。1番「霊山寺」でお勤めを済ませ,待っていると,6:45に納経所が開きました。納経帳は大と小があり,値段は似たようなものです。どっちにしようか迷っていると,
「持ち運びは小さな方だけど,流行は大きいのだね」
と,売店の女将さんの声がとんできました。どことなくきつい口調でした。女将さんは,こんどは別のおへんろさんに向かって,
「これと,これ,・・・これも,いるよ」
やっぱりきつい口調で言いました。不興を買ったのは私というわけではなさそうです。
納経帳は小さいの,持ち運びが便利な方を選択しました。ついでに,金剛杖の帽子(?)と鈴を買いました。
2番の売店
遍路用品は1番のお寺でみんなそろいます。門前にもお店があり,何でも売っています。私も前回,門前の売店で必要なものを全部そろえました。そして,足りないものを今回また1番のお店で買いました。
2番「極楽寺」にいくと,ここにも売店があり,遍路用品を売っています。
「うちが独自に作ったものなんですよ」
「紙もいいのを使ってるし,安くしてるんです」
「ほかの,土産なんかも,安いですよ」
熱心に声をかけてきてくれます。
しかし,私でなくてもたいていは1番でそろえてしまうのではないでしょうか。私たちおへんろには,先のことは分かりません。この先に,どんないいものがあろうと,どんなにおいしいうどん屋があろうと,今あるもの,今食べられるものだけが,私にとって”あるもの”です。
「また,今度にします」
熱心な声かけに対して,私はこう言うしかありません。たぶん,「今度」は,ないと思いますが。
記憶がよみがえる
3番「金泉寺」,ここは夫婦のおへんろさんがいたなあ,愛染院の大きなわらじ,その先のたんぼ道,・・・などなど,現地に行くと前回のことをいろいろと思い出します。6年ではあまり変わったこともありません。
ただ,金泉寺の納経所には,こんなにきれいな女性はいませんでした。
「愛知からは,よくお見えですよ。中部国際空港から徳島空港へは何便もあるんです」
気さくに優しく声をかけていただきました。納経帳も丁寧に扱っていただき,お姿は一枚一枚きちんと袋に入れていただきました。
観音様のようだ,・・・きれいな女性だから,私にスケベ心があるから,そう思えるのでしょうか。
入館料200円 五百羅漢
小銭が178円しかありませんでした。別に500円玉が1枚ありました。入館口には誰もいません。置かれた箱に200円を入れるようになっています。こういうときに人間の本性が表れるものです。
「もったいない」
私の本性はそんなにもみみっちいものでした。
申し訳ないな,と思いながら178円で入館してしまいました。
5番「地蔵寺」で,逆打ちか?
お勤めと納経を終わり,自販機に水を買いに行くと,女性のおへんろさんがいました。
「こんにちは」
といっただけで,特に言葉を交わしませんでした。女性は,そのあと私とは逆の方に歩いていきました。
「逆打ちなんだろうか」
逆打ちは御大師様に会う機会が多いとか,3倍の御利益があるとかいいますが,その何倍も大変なことがあるようです。おへんろ仲間では大変な尊敬に当たります。今まで逆打ち出であった人は一人だけです。
このあと,10番に向かう途上でも逆の方向から歩いてくるたくましい若者に出会いました。でも,逆打ちかと尋ねると,
「終わった(結願した)ので,1番に帰るんです」
逆打ちではありませんでした。そんなにも大変な逆打ちを,女性一人でしているとなると,とんでもなくすごいことに思いました。
ただし,直接聞いて確かめることはできませんでした。
別格1番「大山寺」
初めての遍路道は急な坂道,ところどころ荒れた道でした。別格のお寺だから歩く人があまり多くないのでしょう。ときどき蜘蛛の巣に引っかかりました。蜘蛛の巣があるということは,今日歩くのは私がはじめてだ,ということになると思います。
遍路道の急坂は体力的には大変ですが,涼しい木陰は歩き遍路にとっては嬉しいものです。その後に知り合った青森の女性おへんろさんは
「日陰なら大丈夫,暑いのはだめ」と言っていました。同感です。
大山寺では夫婦のおへんろさんと出会いました。車で来ればなんてことない道なんでしょう。坂も暑さも関係ありません。
おいしかったサツマイモ
納経所のおじちゃんは,ぶっきらぼうでしたが,親切でした。
「茶,飲んでくか?」
と,出てきたのは,たっぷりの冷たい麦茶と,サツマイモでした。
思えば今日は朝おにぎりを2個食べただけです。道々,携行食のピーナッツを少しずつほうばってはいましたが,まともには食べていません。
だからというわけではありませんが,サツマイモをたいへんおいしくいただきました。たかがサツマイモをこんなにもうまいと思ったのははじめてです。
ひとつ食べて,もう一つは白衣のポケットに入れました。
下りは車道で
車道をだらだらと下りました。車もほとんど通らないのでのんびり歩けました。遍路に来るようになって,坂道は上りより下りの方が人体に大きなダメージを与えるということを実感するようになりました。
登りはどんなに急な坂道,どんなに長い坂道でも,一歩一歩確実に進めば,いつかはなんとかなります。疲れたら休みながら登ります。体にダメージがくる前に疲れてしまうので体を痛めることはないような気がします。
下りは調子に乗っていると後で大きなしっぺ返しを食らいます。努めて,だらだらと下るに限ります。
思い出の公衆電話
郵便局によるために,遍路道からはずれて県道を歩きました。すると,見たような景色に出会いました。実は,前回も遍路道をはずれて県道にきていたのです。
前回目指していたのは,郵便局ではなくて,公衆電話でした。そのとき私は携帯電話を持っていなかったのです。遍路にきてはじめて,公衆電話が少ないことを知り,携帯電話を持たないことを後悔しました。
「役場には公衆電話があるに違いない」
と,地図を見てやってきたのがこの道だったのです。
懐かしさでしばらく立ち止まってしまいました。