8月8日(水) 25番「津照寺」〜27番「神峯寺」

 

スカイラインを下る

 

 朝5時にスカイラインを下りました。昨日と違って風がなく,海も静かでした。

 今日の歩行予定距離はおよそ42km,予定していた宿に宿泊を断られてしまったために予定よりたくさんの距離を歩くことになってしまいました。断られたのは今日の宿ではなくて明日の宿です。

「9日の日は,ごめんなさい。いっぱいです」

 やっととれた宿は当初予定していた宿より6kmも先の宿になってしまいました。

「高知ではよさこい祭が始まるんですよ」

 

 

迷い

 

 そういうわけで,今日できるだけ先に進めることになり,28番「神峯寺」まで何とか打つように計画を変更しました。

「無茶な計画だったかな。やめればよかったかな」

 28番を打つためには少なくとも2時までには安田町に入っていたい,という思いが念頭から去りません。

 時計を何度も見て歩みを進めます。この先の8kmを2時間で歩いて,そのあとの12kmを3時間で歩いて,・・・・・・,それでも30分以上ゆとりがある,何とかいけそうだ,何度も念頭計画が展開します。

 いや,28番を打てなかったら明日でもいいじゃないか,その後その強気を打ち消す思いが湧いてきます。いや,いや,やっぱり,・・・・・・。

 結局,ふたつの思いが頭を駆け巡ります。交代で何度も何度もやってきます。

 

朝食はコンビニで買ったパンふたつ

 

 25番「津照寺」でお参りのあとパンをふたつ食べました。本日の朝食です。

 実は,前もって前日に買っておきたかったのですが,室戸岬周辺には売店がひとつもありませんでした。

 最悪の場合朝食は抜きになるかもしれないと覚悟して歩き始めました。地図には25番手前にコンビニがありました。しかし,本当にあるか,朝早くから営業しているか,行って見なければわかりません。

 歩くというのは先の先は分かりません。歩いているちょっと先しか分かりません。だから,角を曲がって営業中の雰囲気を確認したときの喜びは本当に大きなものがあります。

 好物のあんパンとメロンパン,そして携行食としてバターピーナッツを買いました。

 

 

お大師さまのおはからい

 

 コンビニが開いていたのは「お大師さまのおはからい」,そう思うことにしました。

 お大師さまが何とかしてくれる,朝食を心配していたらちゃんとコンビニが開いていたじゃないか,そう思うことにしたのです。

 今日40km以上歩くことになったのも,予定の宿がとれなかったのも,6kmも先の宿になってしまったのも,みんなお大師さまが決めたことなのです。立ったら,必ずうまくいくし,困ったことが出てきたらお大師さまが助けてくれるに違いありません。

 もう決まったことを迷っても意味がありません。

 

オランダから来ました

 

 26番「金剛頂寺」には外国人かカップルがいました。

「どこからきたんですか?」

「オランダから来ました」

 昨日椎名の郵便局で話題になった2人でしょう。

 写真では伝わりませんが,この犬はかなり暑いところに寝ています。「日陰に入ればいいのに」と思いましたが,どうなんでしょう。

 

 

 

麦茶,飲んでって

 

 中山峠道に入る手前で,ふとんを干していた女性に呼び止められました。

「おへんろさん,ちょっと待ってて,冷たいもん持ってくるから」

 一度家の中に入ると麦茶をコップに入れて持ってきてくれました。氷も入っていました。冷たい水・茶はいくらでも入っていきます。一気に飲み干すと少し力が湧いてくるような気もします。山道に向かう気力が高まりました。

 

本当につらいのは長い長い国道

 

 実は,中山峠を下りてからが本当につらい道中になりました。時刻もちょうど南中時刻,日陰のまったくない国道を延々と歩きます。

 

神峯寺の名水

 

 最後の気力を振り絞って山頂に到着しました。途中折り返しても折り返してもいつまでも先が出てくるつづら折りに辟易し,心が折れそうになりました。それでもいつかは着くものです。

 評判の名水をがぶ飲みし,頭からかぶり,しばらく惚けていました。お参りもせず,納経もせず,30分以上縁台でぼーっとしていました。

 お参りをして,納経をして(たいへん美人のおかみさんでした),またそのあとも名水をがぶ飲みし,頭からまたかぶり,しばらく縁台で惚けました。5時を回っても動かずにいたら,ひとりふたりとみんな帰っていき,境内にはだれもいなくなってしまいました。

 

体は休まりましたか

 

 下山する途中で落ち葉の掃除をしていたタクシーの運転手さんに声をかけてもらいました。

「体は休まりましたか?」

 上りで私を追い越していったタクシーのうちの一台です。何台もタクシーや自家用車が追い越していきました。みんな車窓から私の修羅のような顔を眺め,目を丸くしていました。

「あまり無理をしない方がいいですよ。高知の夏は暑いから,歩くのは朝か夕方。日中は木陰でごろっとしていた方がいいですよ」

 

 そのとおりです,運転手さん。私は,遍路をちょっと間違えてしまったかもしれません。