8月18日(土)

歯長峠へんろ道
歯長峠へんろ道

 

へんろ道とトンネル

 

   民宿とうべやのご主人は丁寧にへんろ道をおしえてくれた。へんろ道を登って,トンネルを抜け,へんろ道を下りなさい,と適切なアドバイスをしてくれた。トンネルの上を行くへんろ道は厳しいから避けた方がいいとも教えてくれた。

歯長峠へんろ道
歯長峠へんろ道

 そのおかげで,比較的快適に峠を越すことができた。昨日の夫婦へんろはトンネルの上の古道もいったんだろうか。
 峠を下りたところでジュースを飲んでいたら,接待を受けた。その店のおばさんが大きなマスカットを差し出し,どうぞって言う。とてもおいしかったし,ありがたかった。愛媛県の人はやっぱり違うんだろうか,って根拠のない思いがまた湧いてきた。

43番「明石寺」 西予市宇和町
43番「明石寺」 西予市宇和町

  

 

民宿みやこ

 

 "民宿みやこ"の人が怒った。これについては全くわたしが悪い。
 突然キャンセルをして迷惑をかけたのはわたしであるから,どう考えてもいい訳がない。しかも,最初に素直に謝って向こうのまな板に載ればよかったのに,逃げられるかもしれないと思って電話に返答しなかったという卑怯な行為もわたしはしてしまった。そんな立場だったので,今日はとにかく"みやこ"に行って謝ろうと,どんな罵詈雑言も浴びせられようとも我慢しようと,覚悟した。それもお大師様のお計らいかもしれない。そう思った。
 お大師様のこともそう思ったが,もっと現実的な思いもあった。現実的な反省があった。それはこういうことである。
わたしたち"先生"はいつも正しい立場に立ってものを言っている。わたしたちはいつも正しくあらねばならない,といった方がいいかもしれない。そういう生活をしていると,自分たちはいつも正しい,と勘違いするようになってしまう。本当にそうなのか,自分がいつも正しいのかという思いに至る機会は日常生活ではなかなかない。

43番「明石寺」 西予市宇和町
43番「明石寺」 西予市宇和町

"民宿みやこ"はそんな増長人間に一矢を射てくれた。
「あなたは,まちがっているでしょう。へんろをこれからも続けるんでしょう。反対に予約した宿に裏切られたらどうするんですか。」
と言われたときには,わたしは何の反論もできなかった。
「正しいのは"みやこ"でわたしではない。」
 だから,民宿みやこの人からひどい言葉を言われ,何かとてつもない要求をされることもあるかもしれない。それでも今日は無条件降伏しようと覚悟していた。
 しかし"民宿みやこ"は歓迎してくれた。わたしは完全に負けた。

明石寺裏のへんろ道
明石寺裏のへんろ道

「こっち来てこっち。まあ,ここに座って。もういいよもう。まず,冷たいもん飲んで。」
コップに氷が入った冷たい水が用意されていた。部屋も(たぶんわたし一人のために)しっかり冷やされていた。2㎞ほど手前で携帯に電話がかかってきたので,「あと30分ほどで着きます。」と連絡しておいたのである。わたしはちょっと面食らったが、謝罪の言葉一辺倒である。
「まあ,そんなことはもういいよ。ゆっくり休んで,ね。昨日は大変だったでしょう。暑さにやられたんだね。」
怒りや責めの言葉は全くなかった。"おへんろさん"を接待するへんろ宿のご主人の優しいまなざしがそこにはあった。
「43番が終わったらね。裏の山手の方へ行ってね,旧国道を歩いていくといいよ。左手にずっと国道が見えるから安心だし,国道より歩きやすいよ。国道のトンネルは歩道がないから通っちゃだめだよ。これ,持ってったらいい。」
そういって,凍らせたペットボトルまで用意していてくれた。
 やっぱりこの人たちもお大師様だった。いろんなことを教えていただいた。何よりもそれまで30tもあった重い心が,すうっと軽くなった。

卯之町駅 JR予讃線
卯之町駅 JR予讃線

 

 

卯之町駅から大洲へ
  

 この時点でも調子がよかったら大洲まで行くという選択肢もあるなと思っていた。だが,日が昇り気温が高くなるにつれてみるみる体が重くなってきた。まだ11時前だというのに,ちょっとグロッキー状態。普段の体ではないと完全に理解した。体の熱が逃げていかない。熱がこもってしまう。これが熱中症か。
 43番明石寺で大洲まで行くことは完全に断念した。1時間近くここで休んで,土産のお守りを買った。それでも卯之町駅までの1.6㎞はちょっと朦朧状態だった。