8月9日(木) 安田町から野市町へ

 

何のために歩いているの?

 

 わき目も振らず歩き,目的地に着くことだけが目的になってしまったとしたら何と貧しいお遍路ではないか,そんな思いが湧いてきました。

 振り返ってみれば昨日も,一昨日も私の遍路はそんな貧しい遍路だったような気がします。さくじつの夕食は疲れすぎて食が進みませんでした。そんなことは初めてです。

 今日はゆっくり歩くことにしました。たびたびの休憩も長くしっかりとることにしました。まわりの景色を見たり,音を聞いたり,熱さや風の心地よさをじっくり味わったりすることを大切にしようと思いました。

 とりあえず,宿で朝食をとって出かけることにしました。今回の遍路,宿で朝食をとるのは初めてです。

 

 

出口がどこにもない

 

 ガードレールで四隅が仕切られています。出口がどこにもありません。そして,ほぼ中央に何の変哲もない(と思われる)石がひとつ置かれてありました。何のためのスペースなんでしょうか。

 入るのにいちいち跨いで入らなければなりません。それとも危険物があり入ってはいけないスペースなんでしょうか。見たところ危なそうなものはありません。または,中央にある石は特別な石なんでしょうか。たとえばパワーストーン,ここは有名なパワースポットなのかもしれません。

靴紐で代用

 

 菅笠の紐が切れてしまいました。靴紐で代用しようと安芸市の入り手のところにあった靴店に入りました。

「90cmがいいかな。それとも60cm。120じゃ長すぎるな」

 靴店のご主人に真剣に選んでいただきました。60と90で迷って,結局大は小を兼ねるという気持ちで90cmに決めました。

 代金は240円,こんな薄利な売り上げであんなに親切にいただいたことを今でも感謝しています。

 

足が痛くなってきた

 

 単なる筋肉痛か,それともねんざとか骨折? 昨日,一昨日で歩きすぎたことが原因になっているかもしれません。

 足の痛みは,歩き始めが一番痛く,しばらく歩いていると痛みが小さくなっていきます。そして,大体30分も歩いているとほとんど痛みを感じなくなってしまいます。

 そういうことは今日だけではありません。以前の遍路でもそうでした。筋肉痛もマメができたときもそうでした。それはどうしてなんでしょう?

 自然に治癒する道理がありません。ひょっとしたら脳内モルヒネのようなものが分泌され,脳が騙されるのではないでしょうか。

 

接待所

 

 立派な小屋があり,なかに入ると等身大の人形が6人,出迎えてくれました。

 中には椅子や机はもちろん,冷蔵庫があり,冷えた麦茶が用意されていました。扇風機もあり涼むことができます。壁には励ましの言葉などがびっしり,たいへん手と心のこもった接待所でした。

 ただ,入ったときにいきなり6体の人形に見つめられるのはちょっとびっくりします。

 

 

背負っている荷物は全て煩悩

 

 6年前のへんろのときいっしょになったおへんろさんが言いました。

「背負っている荷物は煩悩ですって。大きい荷物は大きな煩悩」

 発信元は分かりませんが,これは名言です。

 持っていこうかどうか毎回迷うのは下着,そして洗髪用品,さらに雨合羽です。これらななくても何とかなりそうです。でも,「ないよりはあった方が」いつもそう思って持ってきてしまいます。まさに煩悩です。

 考えてみればほかのものも全て例外なく煩悩です。みんな煩悩のかたまりです。

 たとえば納経帳,今の私にとってはお遍路の証としてとても大事なものです。でもそんなものは畢竟スタンプラリーの紙切れに過ぎません。紙切れ(証)などあってもなくても,札所を回ったという事実は変わりません。現に,このあと出会ったおへんろさんの中に,

「私は納経しません」

 という人が2人もいました。

  輪袈裟も数珠も経本も単なる形であり,心から大事なものではありません。

 

長いサイクリングロード

 

 左は広大な太平洋です。右は土佐くろしお鉄道のごめん・なはり線が平行して走っています。非常に良く整備された快適ロードです。歩く人や自転車に乗る人のことを考えた町づくりがなされていました。おへんろさんに対する休憩所や善根宿などの設備も充実しています。

 前回まわったときの記憶にはありません。たぶんそのときもあったのだろうが,こっちのへんろ道ではなく国道をまっすぐ歩いたのだろうと思います。

 

何これ珍百景

 

 黄色い案内板には「西分駅 停車?」とあります。止まるべきなのか,止まってはいけないのか? だれを困らせるための看板なのでしょうか,まったく意味が分かりませんでした。

立派な善根宿

 

 サイクリングロード沿いに立派な善根宿,小さいけれども個室ふうの部屋になる小屋が4棟ありました。中にはテレビや扇風機もあり,雑誌やマンガも老いてあるようでした。どういう人がお接待して見えるのか分かりませんが,こんな立派な接待所は見たことがありません。

 ただ,それぞれの個室にはすでにひとりずつ休んでいる人が見えて,中に入ったり,じっくり覗き込んだりすることができませんでした。

 個室の前には乗ってやってきたと思われる自転車が一台ずつ置いてありました。だとすると,今入っているのは近所の人? 本来の目的とは少し違うのではないか,そこがちょっと腑に落ちないところでもありました。

 

 

3泊目の宿「かとり」

 

 香南市野市の宿「かとり」は,今まででも最高の宿でした。電話で予約したときの応対はぶっきらぼうでしたが,実際泊まってみると何もかも二重丸でした。

 到着するとすぐ冷たいお茶を出していただき,

「今日はごめんなさい。よさこい祭の団体さんが入っていて,やかましくなるかもしれません」

 やかましくなってないうちから,詫びていただきました。

 食事中も若い板前さん(?)に

「おへんろさんに十分お世話ができません,申しわけありません。食事で足りないものはありませんか?」

「明日の,宿は,とれましたか?」

 などと,いろいろ気を回していただきました。

 食事も施設も,そして心遣いも何もかも今までで最高でした。