8月11日(日) 三原村経由で宿毛,39番延光寺へ

久百々の海岸(日の出)
久百々の海岸(日の出)

久百々

 

 いい民宿でした。足摺岬までおよそ20km,昨日は打ち戻って往復40kmを歩き,「久百々」に連泊しました。おかみさんは足摺への道,そして次の延光寺までの道のりを丁寧に教えてくれました。

 食事をした部屋には,先の総理大臣菅直人さんといっしょに写った写真が飾ってありました。おかみさんと菅直人さん,そしてその隣には中年の女性もいっしょに写真に収まっていました。菅直人さんが奥さんといっしょにまわっているという話は聞いたことがありません。

「あの,隣の女の人は誰ですか?」

 おかみさんに聞いてみました。

「たまたま同じ日に泊まった女性ですよ」

 いかにも奥様のように映っていたのですが,たまたまでしたか。

 

 1泊目は夕食のみで5,500円,2泊目の機能は2食付けて60,00円でした。洗濯,乾燥は無料,おまけに今日の弁当も付けていただきました。

久百々のおかみさんがもたせてくれた弁当
久百々のおかみさんがもたせてくれた弁当


久百々でいっしょになった2人

 

 ひとりは40前後の男のお遍路さん。もう一人は同じぐらいの年かさの女の人でした。

 男の人はNさんといい,何とわたしと同じ名字でした。最もわたしの名字はランキング30位以内に入るありふれた名字ですので,ことさら珍しいことではないのかもしれません。

 Nさんは,足摺岬から打戻はしないで月山神社の方を回るとそうです。今回が2周目の遍路で,前回は打ち戻り,久百々に連泊したとのことです。わたしは前回月山神社の方を回ったので,反対の行程になりました。月山神社経由の場合は一日近く余計にかかります。

「久百々から足摺往復は,バイパスを通ったら早く着きましたよ」

 そんなことを教えてくれました。

 女の人はAさんと言い,区切りで歩いているとのことでした。今回は岩本寺スターとでわたしと同じでした。スターと日もどうやら同じ,久百々前日はわたしの泊まった宿の近くで泊まったようです。

「足にマメができて,破れてたいへん」

 といって,ボロボロになった足を惜しげもなく見せてくれました。

「明日は足摺に泊まります」

 無理をしないで歩こうとおっしゃってました。気さくな方でした。

 


延光寺へ打戻り

 

 朝日を背景におかみさんに写真を撮ってもらいました。延光寺に向かって出発です。

足摺岬に向かう二人へんろさん
足摺岬に向かう二人へんろさん

 久百々を出立してほんの5分のところで男性2人のお遍路さんに出遭いました。歩き遍路は90%がひとり,夫婦で歩いているのをこれまで二組見ましたが,男性2人というのは初めてでした。

「安宿から来ました。今日は足摺まで歩きます」

 安宿は前回泊まった宿です。懐かしい思いがしました。

「安宿は,38番と39番の中間地点,とご主人が教えてくれましたよ。ご主人にはマメのできない靴紐の結び方も教えてもらいました」

 そう言って靴を見せてくれました。

「焼山寺はすごくたいへんだった。途中にレストランありますかって藤井寺で聞いたら笑われちゃいました」

 お喋り好きなたのしい方でした。

 

 二人は通しで歩いているとのこと,わたしも時間的余裕があれば一度は通しで歩いてみたいと思います。

「7月22日から歩いています。やっとここまで来ました」

 何気なく別れましたが,いま思えば7月22日といえば夏休みが始まったにです。ひょっとしたらあの二人は”センセイ”だったのでしょうか。千葉からだと言われました。

県道21号線
県道21号線

 

県道21号線

 

 延光寺までの打戻ルートは何本かあります。地図だけで見ていると真念庵ルートが一番楽なように見えました。

「21号線へ行った方がいいよ」

 そうアドバイスしてくれたのは久百々のおかみさんです。前回は月山神社にまわっているので,打戻ルートは初めてです。まったく様子が分かりません。

「木陰がずっと続いて涼しいし,車もあまり通らないので,歩きやすいよ」

立派な山間県道 梅の木トンネル付近
立派な山間県道 梅の木トンネル付近


 そのとおりでした。

 ただ,後半部分,清水川荘以降はうって変わって広くて立派な道路になってしまっていました。こんな山奥に,どうしてこんな立派な道路が? わたしにとっては日陰のない,辛い道路です。

 

 

 

 

愛媛の強者

 

 県道21号線の前半部分,木陰道で前を歩いている若者遍路に追いつきました。痛めた足をかばいながら不安定な歩きをしていました。横に並んで声をかけると,

「地下足袋で歩き始めたら,どうもそれがいけなかったらしい。かかとを痛めてしまいました」

芳井お接待所
芳井お接待所

 わたしは底の厚いしっかりした靴を履いています。山道でもアスファルトでも足をしっかり守ります。しっかりした靴は蒸れるのでマメができやすく,夏には向かないという人もいます。何もかもカバーしている万能の靴はありません。

 それでも,いくら何でも地下足袋はないよ,そう思いました。

 

本州では野宿ができない

 

 ただ,この若者“素人”かと思ったらさにあらず。何度か回っているようです。しかも,愛媛から高野山まで歩いて行った。それから奈良・京都を回って帰った,などという剛毅な話を聞かせてくれました。

「基本は野宿,何日かに1回宿に泊まってさっぱりするよ。洗濯もしたいしね」

 わたしは興味はありますが,野宿をする勇気がまだありません。野宿でひっすな物はと聞いたら,即座に「テント」という答えが返ってきました。蚊はともかく,スズメバチやムカデから身を守らなければならないそうです。テントがあれば大丈夫,それでも入ってくるのはアリぐらいとのこと。

「四国は特別。本州では野宿はできない。公園で寝ていたらすぐお巡りさんが来て,職務質問」

 だそうです。

 

芳井へんろ小屋のおじさん

 

 愛媛の強者と三人でたのしいお喋りをしました。へんろ小屋は至れり尽くせり,冷蔵庫に入った麦茶に缶コーヒー,ジュースがあり,飴やお菓子もたくさんおいてあり,選り取り見取りでした。

「延光寺までなら,まだだいぶあるよ。着くのは4時ぐらいかな」

39番 延光寺
39番 延光寺

 

後半部の県道でバテる

 

 広い立派な県道にはほとんど日陰がありません。でも,道は悪くないので調子にのって歩きつづけてしまいました。しかも,長い下り,リズムよく歩きつづけていると休憩するのがもったいないような気持ちになってしまいます。あと10分歩いたら休憩しよう,あと5分歩いたら,・・・と,どんどん歩きつづけてしまいました。

 芳井へんろ小屋のおじさんが

「暑いから,休憩を長めにとって」

 そうアドバイスしてくれたのに無駄にしてしまいました。

 そのツケが確実に体に回って,延光寺手前5kmほどのところで完全にグロッキー,体が熱くなって気分も悪くなってしまいました。ペットボトルの水もほとんど消費してしまい,補給する自販機も見あたりませんでした。無理をするとあてがはずれる物です。

 くたばる寸前で小学校の体育館の日陰に避難,何とか持ちこたえました。でも,日陰に入っても体が冷えていきません。やむを得ず,校庭にあった水道を無断で失敬して頭から水をかぶりました。首筋をしばらく冷やしていたら少し気分がよくなりました。無断使用をしているという罪悪感がなかったわけではありませんが,それどころではありませんでした。

 緊急避難ということで許してください。

 

延光寺であった自転車2人連れ

 

 この夫婦らしき2人連れにあったのは2回目でした。足摺からの戻り道ですれちがい,夫婦は足摺へ向かう途中でした。今度は,延光寺を参り終えた駐輪場で出遭いました。

「昨日,たぶんお見かけしましたよ」

 そう声をかけたら,

「歩く人と似た速さになって,結構何度か遭うんですよ」

 奥様らしき人がそうおっしゃいました。その言の通り,この2人とはこのあと2回も出会うことになりました。翌日観自在寺でいっしょになったのはまだしも,3日後にまた出遭ったのにはびっくりしました。ちょっと不思議な縁でした。