8月17日(金)

よしのや旅館 宇和島市高田
よしのや旅館 宇和島市高田

 

必要のない荷物を家に送る

 

 朝は調子いい。国道も日陰が多く,涼しく歩けた。松尾トンネル1710m(通過時間30分)はさすがに終盤排気ガスのにおいが鼻についが,それでも日陰なのできついところは何もなかった。今日はどんどん歩けるんではないか,もっといけそうだ,という思いがふつふつと湧いてきた。そして,今日はもっと足をのばそうと決め,"民宿みやこ"に電話し,予約した。"民宿とうべや"も予約してあったので,この時点でダブルブッキング。これがのちに大きな仇になった。
 宇和島局で必要のない荷物を家に送る。
①雨ガッパ・・・夏は濡れても平気。むしろ全身ずぶ濡れになった方が気持ちがいい。
②テーピング・包帯・ガーゼ・ピンセットなどの医療用品・・・もしもの時は必要だが。
③爪切り・歯ブラシ・髭剃りなどの日用品・・・歯やヒゲなんてほうっておけばよろしい。
④着替え・・・靴下1とパンツ1があればよし。
 ずいぶん軽くなった。今まで必要のないものを一生懸命峠の頂上まで運んでいたんだな。

 

 

モスバーガー

 

 モスバーガーで昼食をとった。"スパイスチーズバーガー"にウーロン茶セットをつけた。セットをつけたのには訳がある。もともとご飯好きなわたしは,こういうファーストフード店で食事したことがない。だから,こういう店は無料の水を出さないということを知らなかった。知っていれば絶対入らなかった。冷たい水を何杯もお代わりできるから店にはいるのだ。大量の水を必要としていなければコンビニで食料を買えばいい。当然さっと水がでるものと思っていたのが完全に当てがはずれた。無料の大量の水のかわりにウーロン茶を頼まざるを得なかったのである。

41番「龍光寺」 宇和島市三間町
41番「龍光寺」 宇和島市三間町

 

 

熱中症かも
  
 県道57号線は厳しかった。だらだらとであるが6㎞近くずっと上り坂が続くことにくわえ,時刻は午後1時で日陰が全くない。じりじりと太陽に炙られながらだらだら坂を登っていくのは,山道のように強いダメージは受けないが,ボディブローのようにじわじわときいてくる。
 途中でスイカの接待があった。うれしかった。愛媛県に入ってから接待が多い。高知県の時はみんな"へんろ"は嫌いなのかな,と思うほど人々の目を厳しく感じた。たまたまそういうタイミングだったのだろう。県民性ってことはないと思う。

41番「龍光寺」 宇和島市三間町
41番「龍光寺」 宇和島市三間町

 そんなことを考えるのは,やっぱり"へんろエゴ"に他ならない。基本的にへんろのわたしは地元の人々にとって邪魔者なのだ。一生懸命仕事をしなければならない人々にとって,"へんろ"なんてやっている人間は贅沢な人にしか写らないだろう。「へんろさん,えらいですね。」といってもらえるのが当たり前だと思ったら,大間違い。
 それにしてもだらだらと続く国道はわたしの体力を大幅に削いでいった。そして,この時点では完全に熱中症になっていた,と今では思う。普段のわたしなら少しでも暑いと大量の汗をかく。上衣もズボンも汗で雨に濡れたようになる。股を中心にひどい汗疹が発生し,かぶれたようになってしまう。しかし今回はそういう症状がなかった。汗をそんなにかかないのは,風が少しあるからだと思っていた,風があるから乾いてしまうと思っていたが,それは違っていた。熱中症が静かに進行していたのだ。

42番「仏木寺」 宇和島市三間町
42番「仏木寺」 宇和島市三間町

 暑いけれど汗をかかない。水を頻繁に飲むのだけれど汗にならない。だから飲むとすぐに尿意を催すようになってしまった。汗をかかないから体温が下がらない。熱が体にこもってしまうのだ。ペットボトルの水をかぶって体を冷やすが,それではとても追いつかない。このサイクルが熱中症状。41番龍光寺で納経をすませた後,初めて「自分は熱中症かもしれない。」と思った。
 42番佛木寺では,完全にグロッキーだった。鐘つき堂に横たわり,水を何杯もかぶった。納経所の人が不審げにこちらを見るが,体裁をかまっている余裕は全くなかった。全身が濡れまくるぐらい何度も何度も水をかぶった。そしておかまいもなしにごろんごろんと横になって長い時間休んだ。もう自分に残されたエネルギーがわずかであることも悟った。そして,"民宿みやこ"まで行けないことを自分で納得し,"民宿とうべや"に落ちることを決断した。この時点でもダブルブッキングだった。

たぬき 民宿とうべや 宇和島市三間町
たぬき 民宿とうべや 宇和島市三間町

 

 

民宿とうべやと狸

 

   "民宿とうべや"のご主人にいろんな話を聞いた。
「70代のおじいさんで,1日50㎞ぐらい歩く人がいるよ。」
26日で1周するそうだ。ここに4・5回泊まっている。
「とにかく荷物を軽くすることだよ,へんろは。その人は3㎏以内におさえるそうだ。ちいっちゃなナップサックひとつだよ,持っているのは。」
「何もいらないよ。着替えもいらない。全部洗濯して次の日着ればいい。」
「でも,いろんなひとがいるよね。20㎞までしか歩けないという人もいる。それはそれでいい。」
「タヌキが来るんだ。えさをやるとね。だから,へんろさんたち,残しても大丈夫だよ。初めはえさをやってもすぐ逃げてしまったが,今はよくなついているよ。」
その言のとおり,2匹のタヌキはまるでペットのように窓の下に来て,えさをねだっていた。

へんろ小屋
へんろ小屋

 

 

東京の夫婦へんろ

 

 東京から来たという夫婦のへんろといっしょになった。昨日津島町で見かけた人たち,また四万十川を渡るとき遠くに見かけた2人だと,たぶん思う。明日卯之町駅まで行ってバスで帰るといっていた。「清水大師」ってありましたか,と昨日の峠道のことを聞いたら,
「ありましたよ。30mぐらい横道に入らなければならなかったけれど。」
「今日は5時から歩いて,途中で宇和島城に寄りました。」
 昨日見かけたときにはよたよたと歩いている頼りない夫婦に見えたけれど,なんのなんのわたしよりずっと元気,寄り道しようと思う余裕があったんだ。わたしのいっぱいいっぱいの気持ちよりずっとたくましい。