星空,潮騒,日の出
朝4時に宿を出ました。真っ暗です。国道56号線は信号のあかり,自販機のあかりがひどく目立ちます。目線を上げれば幾多の星と半月,朝方出る半月は「上弦の月」だったか,「下弦の月」だったか,どっちだったでしょうか。
それ以外は漆黒の帳に隠されて何も見えません。ときどき車がエンジン音とともに近づいて走り去っていく以外は動きもありません。
ひたすら国道をまっすぐですから道を間違えることはありません。左からは潮騒,繰り返し繰り返し聞こえてきますが,なぜか単調な音とは違って膨らみがありました。
明るくなってきたのは5時頃,山の端が薄紫色の空に浮き出してきました。日が出てきたのは5時半頃でした。
朝はずんずん歩けますが,・・・
1時間歩いたら休憩というのを基本としています。しかし,朝は涼しくて気持ちがいいのでどんどん歩いてしまいます。1時間半たっても「もう少し歩こう」と先に歩みを進めます。涼しいうちに距離を稼いでおこうという気持ちもあります。
今日の歩行予定距離は36kmです。午前中に24km,午後12kmが歩行計画としてはベスト,そんなことを考えて歩いています。
岬の向こうには?
国道の左は太平洋,右は山,という風景がずっと続きます。視線の先は岬です。曲がりくねった海岸道路の先には岬がいくつもいくつもあります。コンビニも自販機も何もありません。
「あの岬を越えたら,何かあるかもしれない」
その期待は多くの場合裏切られます。
適当な休憩場所(日陰)を求めて歩きます。なかなかありません。やっと見つけた日陰は小さかったり,座りにくかったりします。
「あの岬の向こうにもっといいところがあるかもしれない」
そういう期待も何回も裏切られました。さらに何もない海岸道路が目の前に現れて,大きな落胆を味わうことになります。さっきのところで休んでおけばよかったと思うのは後の祭というものです。
人生もそういうことがよくあります。
とくになにもないのが佐喜浜から先です。また,時間がたつにつれて太陽が昇ってきて,日陰はどんどん小さくなります。太陽が真上から照りつけるときは日陰は全くないということを実感しました。自分の影さえも足下にしかありません。あるおへんろさんが「自分の影に入りたかった」といわれましたが,まったく同感です。
サルとトンボと
突然猿が草むらから廃屋の屋根に駆け上がりました。野生の猿でしょう,しばらくじっとこちらを見ていました。また,日陰で休んでいるときに金剛杖にトンボがとまりました。トンボもじっとこっちを見ていた,・・・ような気がします。
炎天下は炎熱地獄ですが,日陰に入ると心地よい風を受けてからだが休まります。その落差は別天地といっても過言ではありません。この日陰の涼しさがあればエアコンやクーラーなどいらない,と心から思います。
ドライブイン夫婦岩
ドライブイン夫婦岩は休業中でしたが,絶好の軒先があり,勝手に休ませていただくことにしました。軒先の下には広い縁台があり,すべての荷物を放り投げ,靴も靴下も脱いで解放しました。
しばらく休み惚けていたら,突然2台の車が止まりました。
「骨折して,一ヶ月も休んじゃった」
女の人が男の人に言っています。どうやらここの経営者のようです。私が休んでいた軒下にやってきて私を見つけました。
「すみません,勝手に入って・・・」
「かまへんよ,ゆっくりしてって,・・・これひとつ」
そう言って私にパピコをひとつ渡してくれました。
外国人のお遍路さんたち
椎名郵便局に寄ったら局員の女性が,
「さっき,同じようなお遍路さんが見えましたよ。オランダの男の人と女の人でした」
そう声をかけてくれました。
外国人のお遍路さんは以前にも出会ったことがあります。いろんな人が歩いていると思うと何となく心強くなります。
このオランダ人の男女とは翌日26番「金剛頂寺」で言葉を交わすことができました。
青年大師像のところで自転車で回っている外国人の男女を見かけました。御蔵洞のところでまた会ったので声をかけてみました。
「どこからきましたか?」
「アメリカ,です。今はおおさかに住んでます」
この自転車には,翌日奈半利町で追い抜かれました。
室戸岬は“観光名所”以外は何もありません。
室戸岬は観光地です。でも,"観光地"以外には何もありません。
地図によると店も食堂もあることになっています。岬に着いたら,レストランに入ってかき氷でも食べたいな,それぐらいの褒美はもらってもいいでしょう,と考えていましたが,見事に外されました。思えば前回きたときも同じように外されました。
車で来て,自然の風景をたっぷり味わった後,さっと戻ってしまう人が多いのでしょうか。
車で来ていない私はそれまでたっぷりすぎる自然を味わってきました。味わい尽くした後,人工的なソファーで一息入れたいと思ったのですが,私のようなニーズには対応していないようです。
24番札所「最御崎寺」と遍路センター
ここまで今日は35kmを超える道のりを歩いてきました。
「最御崎寺まで700m」
最後は山登りです。はじめて登った前回の記憶がよみがえってきます。長い道のりに置かれた,最後のもっともきつい試練でした。
灯台にも寄ってみましたが,眺望はあまりよくありませんでした。
最御崎寺のとなり(境内?)にある「室戸岬最御崎寺遍路センター」という長ったらしい名前の宿は,実質宿坊だと思います。
今まで宿坊は何か所か泊まりましたが,いづれも極めて豪華です。そして安価です。宗教法人ということで税制優遇されているからでしょうか。「坊主丸儲け」という言葉が頭をよぎりました。