8月11日(土)

土佐白浜
土佐白浜

だるま太陽

 

 朝5時出立。朝食がわりのおにぎりは昨日の夜もらっていた。夜が明け始めるのがちょうど5時。まだ日が出ていないので涼しく,気持ちがいい。気持ちよく歩けるのだが,体力的にはどうか,という問題がある。朝しっかり食べ,エネルギーを充填して出立した方が,長時間歩くにはいいのかもしれない。しかし,だいたい宿の朝食が6時半前後で,それを待って出立となるとどうしても7時近くになってしまう。逆に,時間的には5時から歩いた方がいいに決まっているが,そうするとどうしてもまともな朝食がとれない。結局数時間後シャリバテ状態になってしまうことが多い。どっちをとるか,悩ましき問題である。
  土佐白浜駅の海岸で出会ったおじさん。振り幅200度を超える元気な手の振りが印象的だった。そのおじさんが教えてくれた。
「へんろさん。あの太陽,あの先がちょうど室戸岬なんだよ。」
「えぇ!そうなんですか。」私の脳裏に室戸岬の景色がよみがえり,高知の海岸線の弓なりカーブが頭に浮かんだ。
「でね。その先をずうっとのばしていくと,潮岬。紀伊半島のね。もっとのばすとぴったし東京になるんだよ。へんろさんの国はどこ?」
「愛知なら,もうちょっとこの方向かな。」
「冬になるとね,空気が澄んであのあたりに太陽が2つ重なって見えるんだよ。そんなときは。"だるま太陽"っていってみんな写真を撮りに来るよ。めったにないんだけどね,1年で5日か6日。そういうときは室戸岬も見えるんだよ。」

一休み
一休み

 

 

おにぎり

 

  伊田トンネル出口でおにぎり弁当を食べる。おにぎりがおいしくない。このあと翌日もおにぎりを食べたがおいしくなかった。どうも,おにぎりのせいではなさそうだ。暑いので水分はたっぷり採っているのだが,脱水症状が激しく追いつかないのではないか。したがって,唾液が思うように出ない。噛んでも噛んでもうまみが口の中にとけ込んでこない。いつまでたっても口の中のご飯がパサパサ。水といっしょに流し込まないとのどを通らない。・・・・・・,初めはそんなこと思わなかったが,数日たつうちにその理論は確信となった。 食べていたら頭の後ろから声がかかった。
「おはようございます。」
黒いTシャツを着た若い遍路さんが,足取り軽く追い越していった。
「おはようございます。」
今回初めてあったへんろさん。このあと2,3回見かけたが,会話はこのあいさつだけだった。それでもうれしかった。だれも歩いていないんじゃないか,今回こそだれとも会わないんじゃないか,と寂しい思いをしていたからである。

無料休憩所「東寺庵」 国道56線号沿い上川口
無料休憩所「東寺庵」 国道56線号沿い上川口

 

 

へんろエゴ

 

 わたしのようなへんろは地元の人から,働いている人から見てどんなふうに写るんだろうか。
「いい身分だよな,働きもせず,ふらふら歩き回ってよ。俺たちそんな余裕はないよ。毎日毎日働かなきゃいけないんだよ。邪魔だよ。」

へんろ小屋
へんろ小屋

 そんな思いでいるんじゃないか。しょせんへんろは邪魔者。一生懸命生活している人たちにとっては
「ちょっと,俺の前を歩かないでよ,忙しいんだから。」
「何でこんなところ歩いてるんだよ。ダンプにとっちゃけっこう神経使う物体なんだよ,歩行者っていうのは。」
というような迷惑千万の存在かもしれない。"お四国へんろ"は一般的に世の中に認められ,特に歩いている人は賞賛される。でも,そういう認知と賞賛が当たり前のものとして本人が感じ取ってしまっているとしたら,それは大きな間違いだろう。だいたいどんな世界でも"よいことをしている"やつは傲慢になるに決まっている。おまえたちのためにがんばっているんだから俺の思いは絶対なんだ,というように,自分の努力を他人を睥睨する権利の証とする。へんろも同じ。「みんなができないことをやっている」という自覚からへんろは傲慢になる。それはまさしく"へんろエゴ"である。
  うどんの田子作で「田子作うどん」を食べた。うどんも食べたかったが,それより冷たい水が飲みたかった。むっちゃ飲んだ。自分で何度も何度もお代わりして,食べるために入ったんではなく,飲むために入ったんだ,と思われるほど飲んだ。水は無料とはいえ,これは顰蹙だったかもしれない。店の人は何ともいわないけれどもね。だってわたしはへんろだもの。これも「へんろエゴ」なんだろうね。

四万十川 四万十大橋から
四万十川 四万十大橋から

 

 

四万十川

 

 四万十川,でかい,きれい,川下り船も"大河"の雰囲気を醸造していた。

 

ほとけ様の花

 

 道端の石仏,ほとけ様にすっごく豪華な花束が供えてあった。愛しい愛しい人がここで命を落としたんだろうか。こんなにもと思うほど豪華なバラの花束で飾られていた。

 偶然かもしれないが,そのあとであった石仏様たちも盛りだくさんの花々で飾られていた。高知の人たちはそんな人情を大切にするのだろうか。すっごく暖かい気持ちになった。

安宿 土佐清水市下ノ加江
安宿 土佐清水市下ノ加江

 

安宿

  

 佐賀温泉から安宿まで地図上では37㎞のはずだった。が,安宿のおじさんが,
  「そのへんろ地図ではそうなってるけど,本当は40から41㎞はあるよ。あの地図はちょっとずれてるんだよ。」

 確かに,特にトンネルを出てから8㎞表示だったわりにはなかなかつかなかった。感覚的にはもっとあるような気がしたし,自分がつかれているだけのような気もした。結局どっちだったんだろうか。
「民宿夕日までだったら,40㎞!」・・・・・・ちょっとそれは大げさじゃあないのかな。

下ノ加江海岸
下ノ加江海岸

 

 

滋賀のお兄さん

 

 安宿で会った滋賀から来たお兄さん。中村からの22㎞(安宿のおじさんの考証距離)を4時間できたという。明日は土佐清水まで45㎞(同)歩くという。
「そんなにあったかなぁ。18㎞ぐらいだと思った。」
本当にどっちが正しいんだろう。
「普段ちょっと合わない靴をわざと履いて,マメを作って足を鍛えている。一応マメ対策として針や糸を持っているが,固くなってくれるのがベスト。」
そういう考え方もあるのか。
「あんまり暑くないのでちょっとがっかり。カーッと暑い中を歩くのが好きなんだ。」
その気持ちはわたしも分かる。このときは本当にそう思った。数日後あんなに暑くなるとは思わなかったからだろうか。滋賀のお兄さんは望みどおりになって喜んでいるだろうか。