8月12日(木)

民宿岡田

 

 女将さんから次の宿泊予定宿までの詳しい案内を聞きました。

「雲辺寺は下りが急で,長く大変」

「しばらく何もありません。コンビニも食べ物屋もです。観音寺に入ってからのうどん屋がはじめてですかね」

 昼の心配をしていたら,カロリーメイトのお接待をしていただきました。

「69番観音寺から70番本山寺は川の右側を通った方がいいですよ」

 朝食を食べたあと,宿の前で写真を撮ってもらって出発です。

 

 30分ほど川沿いに緩やかに下ったあと,そこから一気に山登りになりました。たんぼ道ではサワガニが二匹出迎えてくれました。

 

汗とアセモ

 

 上り山道は覚悟して入りましたがたいへんでした。30分ほどのぼったところでもう汗でズボンもぐっしょりになってしまいました。このときはまだ気がつきませんでしたが,これが太もも内側のアセモの原因になり,この日の後半はひどい痛みとの戦いでした。宿で風呂に入ったときの痛みは大袈裟ではなく,とび上がるほどでした。

 以下は後日気がついたことです。

 どうもアセモの原因は,前(下腹のところ)にポーチをしていたところにあるようでした。前にしていると風通しが悪く,汗が乾きません。足から発生した汗だけでなく体中から流れてきた汗がズボンや下着のところにたまってしまうようです。だから,太もものところはずうっと汗にまみれた状態になってしまうのです。

 そのことに気がついでからは,ポーチを横向きにしました。さらに,前に垂れ下がっていた白衣も横に分けて,できるだけ風通しをよくするようにしました。(人がまったくいない山の中などでは,時にズボンもはだけて下着を晒しながら歩いたりもしました。)そんな努力の甲斐があって,それ以後はひどいアセモはできませんでした。もちろんアセモの薬も毎晩ていねいに塗り込みましたが,薬の効用ではないと思っています。

 

雲辺寺は県境

 

 雲弁じの山門を入ると紫陽花が咲いていました。標高910メートル,季節は下界とは少しずれているようです。不喫茶裸子のロープウェイ鋭気では風も強く,猛暑の8月とは思えない気温でした。汗に濡れていることもあって少し立っていると肌寒くなってくるほどです。

 ただ,こんな山の上なのに水は豊富なんでしょうか。手水のところにこんな案内がありました。

「手を洗うのではなく,飲んでください。」

おいしくいただきました。ついでに,2本のペットボトルにもたっぷり補給させていただきました。山の中で水がなくなるほどつらいことはありません。

 

徳島県と香川県

 

 自転車のおへんろさんがいました。話はできませんでしたが,この山の上までのぼってくるのは歩くよりきつかったのではないでしょうか。「上りがなければいいのに」と自転車だったらなおさらそう思います。

 

 県境はロープウェイ駅のところにありました。そこからは下の町が展望できます。瀬戸内海も遠く望める絶景です。五百羅漢さんも駅に行く途中にありました。ほとんど人と同じ大きさの羅漢さん,うじゃうじゃと集まっています。本当に五百あるのどうかわかりませんが,ちょっと異様な感じがします。

 県境をまたいで,「2県を股にかける大物になってみました。」と職場の同僚女性にメールをしました。

 

きつい下り

 

 踏み外して滑ったりしたら大怪我しそうな急な下りが続きました。それも,いつまでもいつまでも続きます。体力的には消耗しませんが,足や膝にがんがんきます。転んではいけないと神経も使います。

 1時間近くも下ったでしょうか。その間まったく平らなところはありませんでした。はじめて出たなだらかな小道にベンチがしつらえてあり,地元のおじさんが座っていました。

「わたしは毎日ここまで上がってくるんですよ。」

 瀬戸内海を遠望しながら穏やかな口調で話しかけていただきました。

 その後,県道に出たあとは道は穏やかになりましたが,いぜんとして自販機もコンビニもありません。日陰もないので,ゆっくり休むこともできません。携帯した水が残り少なくなってきてしまいました。

 

蓮の花

 

 大興寺の手前の池に蓮がいっぱい咲いていました。小振りな花でしたが小さくでもきれい花が,池一面にひろがった蓮の葉っぱの間からいくつもいくつものぞいていました。

 本当に何もない田舎の道が続きましたが,お地蔵さんだけはいっぱいありました。香川県に入ってからでしょうか,たびたびお地蔵さんに出くわすようになったのは。

 大興寺にはお寺の裏に着きました。そこからお寺の横に回って,ぐっと下って山門に至りました。そして,山門をくぐって長い上りの階段です。

「わざわざ下りてから,上るのもお大師様のお導きなんでしょうか。」

 それにしても,どうしてお寺さんは山の上とか階段が好きなんでしょうか。疲れ切った身体を持ち上げなければならない身としてはちょっと愚痴でも言ってみたくなります。

 納経所の和尚さんに

「山門を出たら左です,川の流れに沿っていってください。」と次への道を教えていただきました。

 大興寺を出たすぐのところに,今度は赤い蓮の花がありました。蓮田と思うんですが,違うでしょうか。今度の花はたくさんではなく3つばかりが咲いていただけです。丸い葉っぱは,マンガではかわいいカエルがよく乗っている葉っぱですね。

 

さぬきうどん

 

 女将さんに紹介されたうどん屋は県道6号線沿いにありました。黒い板塀のこじんまりしたお店でした。どうしようかちょっと迷いましたが,パスしてしまいました。70番の本山寺に5時前に入るのにあまり余裕がないと思ったからです。

 でも,せっかくの讃岐うどん,結局その後何日も食べる機会がなく,このときパスしたのを大いに後悔しました。煩悩を引きずりながら歩くことになってしまったわけです。あまり先のことなんか考えずに,目の前にあるうどん屋に飛び込むのがきっと正解だったのでしょう。

 昼はちょっと先にあったスーパーマーケットでグミとピーナッツ,カップのかき氷を買い,店先で座って食べました。でもちょっとだけハプニング,食べようとしたらスプーンがレジ袋に入っていませんでした。(ここはレジ袋は無料提供でした。)

 靴を脱いで靴下も脱いで,どっかと腰を下ろしたあとだから,また店内に戻るのはけっこう厄介なんです。それでも食べられないので戻るしかありません。また靴と靴下をはいて戻って,レジのお姉さんとところまで尋ねると

「そこにおいてあります」

「・・・・・・」

 買いに来るのは地元の人ばかり何でしょうから,そんなこといわなくてもわかるんでしょうね。

 

要塞のような神恵院の本堂

 

 神恵院と観音寺は同じ境内にあります。納経所も同じでした。でも,別々のお寺ですから,納経料はそれぞれ300円,あわせて600円です。

 神恵院の本堂にはちょっとびっくり,コンクリート造りの真四角,味も素っ気もない外観に真四角の入り口がありました。その中にご本尊さまが鎮座ましまされています。どんな気分なんでしょう。

琴弾公園の寛永通宝

 

 インターネットで紹介されていた砂の寛永通宝を見ることにしました。

「観音堂の裏から少し上がってください。」余分には歩きたくはありませんが,500メートルほどだということなので,足を伸ばしてみることにしました。

 展望台には音声案内が流れていました。

「・・・・・・徳川家光の時代に・・・・・・」

 てっきり最近の道の駅ブーム,町おこし政策で作られたものと思い込んでいたのでちょっとびっくりしました。そんなに昔々に作られたものなんですね。わたしの中ではぐぐっと価値が上がりました。

 上から見て丸く見えるように計算されている,というのにも感心しました。

 

川の右岸

 

 右岸は気持ちのいい道でした。ちょっと大回りになるので迷いましたが,女将さんのアドバイスの従ってよかったと思いました。車がほとんど通らない。だから静かです。落ち着きます。静かで落ち着くと暑さだって和らぐような気がしてきます。実際に涼しいかどうかわかりませんが,ゆったりした気分で歩くことができました。

 ただ,5時という時間は気になったので,今までにない早さで足を進めました。69番観音寺からの5キロメートルを50分で歩きました。ちょうど1分で100メートルの速さということになります。

 残り1㎞をきったころから対岸に五重塔が見えてきました。四国のお寺では五重塔はたいへん珍しいものです。今まで見たことないように思いますが,どこかにありましたでしょうか。

 

70番本山寺

 

 フルマラソンを走るという先達さんと24時間歩くという若者がベンチに座って話し込んでいました。

「賽銭は投げちゃいかん。乞食にやるんじゃないから。」

「へんろの文化はすごいですね。」

 若者がさかんにこの文化のすごさをたたえていました。でも,今となっては何がすごいといっていたのか忘れてしまいました。お接待のことをいっていたような気もします。

 ただ,若者の歩く速さにはおどろきました。どうも三角寺の前から歩いてきたようです。

「ほとんど走っていますから,すぐ靴が駄目になっちゃうんです。」

 

一富士旅館

 

 山本寺の隣にあります。民宿としては豪華なお風呂で,足がすっかり伸ばせました。夕食は前日の民宿で一緒だった女性,Gさんといっしょで,向かい合わせでした。気さくな女性でノースリーブのタンクトップで現れたのには,ちょっとどきっとしました。