宿の予約
私はたぶん心配性なんです。その日の宿が決まってないと,心配で心配で,目の前のことに集中できなくなってしまいます。一昨年伊予を回ったときなどは,出かける前に4日も五日も先の宿を予約しました。
実は,そんなんではいけないと思っています。
明日のことが気になって,今日に集中できない,今に一所懸命になることができません。そして,一日たつと,また明日のことが気になってきます。それでは,ずうっと「今を体験すること」ができません。
「今日の宿,まだ決まってないんです」
そういって平気な顔をしている人がいます。そういうふうになれたらいいと思っているのです。その日,一所懸命歩いて,たっぷり楽しんで,目の前の美しい景色を味わって,・・・それから,ここまで来たから,宿,どうしようかなって考える,そんなふうにして,今を中心に生きられたら素晴らしいと思います。
今回のへんろは,ほんとうはそんなふうにいきたかったのですが,やっぱりできませんでした。
結局,前日に宿の手配をして安心する,そこまでがギリギリでした。
高速バス
高速バスが通るようになって便利になった,というのが昨日の夕食の話題でした。
「あんたも,バスで帰りなさいよ,大阪までならここからでもでるよ」
と,あづまの女将さんに勧められ,海部駅から高速バスで帰ることになりました。
その乗車券の購入システムにちょっとした感動をしました。
まず,電話で路線と時間の予約をとる。オペレーターに教えてもらった受付番号を控える。ここまでが,昨日のアクションでした。そして,今日。コンビニ(ローソン,ファミマ)に行って,専用の機械を操作する。そのとき必要なのは受付番号と予約したときの電話番号,その2つのデータを間違えなく入力すれば,機械から自動的にレシートが出てきます。それをレジに持って行けば,代金と引き替えに乗車券を売ってもらえます。
私が予約したのは,徳島バス,海部バス停11:25発,大阪駅15:45着。代金は4,900円でした。
讃岐うどんが食べられるローソンで購入しました。讃岐うどんは食べませんでした。
はじめての海
へんろ9日目にして見たはじめての海がここ,内妻海岸でした。
早朝7時,早くからたくさんの人が海岸に出ていました。ほとんどの人が同じTシャツを着ています。はじめにちょっとした打ち合わせがあったあと,海岸全体に散らばっていき,ごみ拾いをはじめました。どうやら,地元の人総出の海岸掃除のようです。小さな子もお父さんと一緒にごみを拾っていました。
ここからはずうっと海が続きます。今までは山といっしょに歩いてきましたが,ここからは海と仲良しにならなくてはなりません。
鯖大師
鯖大師はご本尊さまが弘法大師です。他の寺は,たとえば本尊が薬師如来で,その隣に大師堂がある,という体裁になっています。本尊が弘法大師ですからいわゆる大師堂がありません。ちょっと妙な感じがしました。
「鯖大師」という寺名も変わっています。
自転車は1日70㎞
鯖大師では,スポーツサイクリングの練習をしているおじさんと話ができました。
「走るだけなら,1日200㎞なんてのも可能ですけど,学生のころ,荷物を持って何日も移動する,キャンプツーリングをしていたときには,1日70㎞ぐらいでしたね」
奥さんの実家がこの近くというおじさんは毎年のようにここに来ているそうです。
「道は年々良くなりますね。国道も以前は曲がりくねっていて,夜なんかはヘッドライトの先がよく見えないところも,たくさんありましたよ」
2人で話していたら,ご住職がアップルジュースを持ってきてくれました。
お接待
コーヒーショップの駐車場の一角に休憩所が建てられていました。座って休憩しようと荷物を下ろしていると,中から店の人が出てきました。
「おへんろさん,冷たいものでも飲んでって」
中へ戻ったおかみさんは,氷の入った水とお菓子を持ってきて,
「これね,岐阜県の人からいただいたものですよ。お遍路の来たときにお世話になったとおっしゃって,昨日わざわざ寄っていただいたんです」
鮎の形をしたお菓子でした。
真夏に歩き疲れているときにおいしいのは,まずは冷たいもの,そして甘い物です。おかみさんはおへんろさんのことをよく分かっていらっしゃいます。
「夏は,冷たいビールをキューッと一杯」は,私にとってはもう嘘になってしまいました。
出がけに郵便局の場所を聞きました。
「2つめの信号を過ぎてちょっと行ったところにありますよ」
きちんと教えていただきました。が,はじめの信号まで30分もかかるというのは全く予想外でした。
トンネル
長さは,たぶん20メートルぐらい,コンクリート製だと思いますが,高さ10メートルほどの台形の建造物に,トンネル形状の穴があいています。JRの路線がその中を通っていて,その先に海部駅があります。だから,鉄道用のトンネルだとは思います。
ただ,トンネルの上はわずかな雑草地があるだけです。あの雑草のためでないとしたら,この建造物が何のためにあるのかが分かりません。なくても電車の運行や地域住民の生活には何の支障もないように思えます。
不思議なトンネルです。
私は心配性その2
海部駅は無人駅でした。その一つ前の海南駅も無人駅,考えてみれば地方は多くが無人駅になっています。実は,駅に着いたら新幹線の切符を買おうと計画していました。
私は,「心配性なんです」,新大阪駅で新幹線が満席だったらどうしようと,心配がいつも先に立ってしまいます。駅に着いたら切符を買おう,と決めたのは昨日,切符が手に入れば,とりあえず安心できます。
でも,無人駅,切符が買えません。
「牟岐駅で買えばよかった。この地域の中心は牟岐駅だったのか,JR線終点の海部駅だと思っていたのに」
ほんとに,こんなことではいけません。
先の心配は無用。そうなりたいものです。お大師様が「新幹線の切符など,心配するでない」とおっしゃっているのでしょう。
「明日のことを煩うな,明日は明日が心配する」という言葉を残した人もいます。
海部バス停
バス停の場所が分かりませんでした。案内にあった「遊々NASA」まで行ってもどこにもありません。地理カンのない人にとっては,この略図では向きがよく分からないのです。果たしてバス停は,この先なのか後ろなのか。
予約センターに電話して聞きました。たいへんわかりやすく教えていただきました。
「遊々NASAからどっちを向いていますか? 駅の方に行ってください」
案内地図だけ見ていたときは上と下がよく分からず,こんな不親切な略図,役に立たない!,と焦りと怒りで心がいっぱいになっていしまいした,地獄の鬼か修羅のように。
一転,電話の丁寧な案内を聞き,ほっとしたとたん,一瞬で極楽に生まれ変わりました。
地獄・極楽も気分ひとつです。
ただ,略図には海部駅を入れておいてほしかった,と思いました。
高速バス
徳島県海陽町海部から大阪駅まで,高速バスで4時間半です。昨日から今日にかけて歩いた国道55号線,由岐,日和佐,牟岐,海部と,私は1日半かけて歩きました。その道をバスは逆走します。あんなに長い時間歩いたのに,バスは小1時間でこともなくクリヤしてしまいました。
あっという間という擦り切れた表現を使うのはいやなんですが,本当にそう感じました。
若いちょっと小太りの男性へんろが車窓から見えました。しっかり杖を握って一歩一歩,足は上がらないが止まることはなく,ちょっととがらせた口は少し上を向いています。車窓から見えたのは一瞬ですが,その歩みがしっかり伝わってきます。
私も同じ歩き方をしていました。
バスがやけに急いでいました。カーブをキュッと曲がり,赤信号にも突っ込んでいきました。「バスって,こんなに速い?」
運転手の焦りが感じられます。ダイヤに遅れがあったのでしょう,緊張した走りは「橘営業所」というバス停まででした。ここで何らかのチェックがあるのかもしれません。
4時間半のバスの中では,あんパンを食べてポテトチップスを食べて,週刊新潮を四で過ごしました。あんパンはスモールサイズの5個入り,疲れたときは甘いものが最高です。ポテチはやっぱり食べ始めると止まりません。週刊新潮は若いころ毎週読んでいましたが,何がおもしろかったのか今では理解できません。