暗闇でドブに落ちる。
朝の4時,真っ暗ななか出発。今回のへんろで早朝出発のペースが身に付きました。できるだけ涼しい朝歩いて距離を稼ぐ,そして昼日中はゆっくりして体を休める,これが夏へんろには適しています。できれば,早めに宿に入りたいものです。
暗い国道を懐中電灯を頼りに歩くのにも慣れました。さすがに暗いうちに山道に入ることはありません。国道ならばときどきすれ違うクルマに注意すれば十分です。
ところが,まさに油断大敵,道端のドブに落っこちてしまいました。原因は食べながらの歩行でした。コンビニで菓子パン(もちもちチョコ・・・これがおいしかった)を買って,食べながら歩き出しました。比較的明るい交差点を横切って国道沿いに歩き始めた直後,ズドンと体がいきなり落下してしまいました。災いはいつも思わぬところにあります。
真っ暗でなくて交差点の明かりがあったのが逆に災いにつながったと思います。真っ暗なら電灯の明かりに集中していたはずですが,このときは気持ちがもちもちチョコにいっていました。
不幸中の幸い,もありました。ズドンと真下に落ちたため,何とか転倒を免れました。ズボンはどろどろに汚れましたが,怪我はありません。こんなところにもお大師さまのおはからいがあったのでしょうか。それとも,捨てる神あれば拾う神あり,と言えばいいのでしょうか。
鳥坂トンネルを越えて大洲市へ
1000m強の鳥坂トンネルには歩道がありません。歩いて抜けるのに15分,クルマとすれ違うたびにトンネルの縁によってやり過ごします。懐中電灯でこちらの存在をいちいち示しますが,ちょっとしたスリルも感じます。
トンネルを抜けて少し行くと小さなパーキングエリア,「札掛ポケットパーク」がありました。”ポケット”という呼称はなかなかしゃれたネーミングです。ここにきて初めてこの呼称を知りました。
肱川と大洲城
大洲市をぐるりと囲むように流れる肱川,そのほとりの小山に立つ大洲城,このマッチングの美しさは特筆ものです。加えて今日この日この時間は,朝日が柔らかく差し,鏡面のようになった川面がきれいに大洲城を写していました。
肱川に架かる橋を渡ると大洲の繁華街になります。
おはなはん通り
大洲市は,大人気を博したNHK連続テレビ小説「おはなはん」の街でもあります。もう40年以上前の放映番組ですが,私はよく覚えています。おはなはんを演じたのは樫山文枝さん,この人の人気も爆発的でした。
また,樫山文枝さんのお父さんがわたしが通った大学の哲学科の教授でした。講義を受けていたわけではありませんが,仲間と連れだって見に行った記憶が蘇ってきました。
神南堂
十夜ヶ橋をすぎ,新谷の街を抜けると屋根付きの立派なへんろ休憩所があります。ごろりと横になると心地よい風が吹いてきます。しばらく目を瞑って時を過ごしました。30km近く歩いてきた体の疲れがじわっと抜けていくような感じがします。
この神南堂には五右衛門風呂があります。トイレもあり,極上のへんろ小屋です。
交通事故
「お遍路さん,ついさっきだよ。もうちょっと早かったら,危なかったかもしれないよ」
クルマが歩道の街路灯に突っ込んでいました。こんなふうに乗り上げてしまうのですから,かなりのスピードで突っ込んだに違いありません。ほんのさっきの出来ごとのようで,沿道の人たちの興奮は収まっていませんでした。広くて走りやすい道が仇になったのでしょう。
内子町
内子は新しくきれいな街です。広く新しくなった国道が街の中心を走り,沿道にはショッピングセンターなどの施設が新しくどんどん建てられているようです。
駅前は広々と整備されていて,なぜか蒸気機関車が中心に据え置かれていました。
ただ,新しい街は開発途中でもあり,駅前にはあると思ったレストランやコンビニがありませんでした。昼食をあてにしていたのですが,まったくあてがはずれてしまいました。
打ち止め
今回の打ち止めはこの内子駅です。13:51発の特急「宇和海」松山駅に乗って帰ります。
松山からは特急「しおかぜ」岡山駅行きです。
分刻みで走る日本の列車
「列車が遅れましてまことに申しわけありません。松山には4分遅れで到着します」
車掌の謝罪のアナウンスが何度も流れました。毎回思うことですが,少しでも遅れたら当事者にとっては大事件なのです。たかが4分なのに。でも,この緊張感が日本の鉄道の正確な運行を維持しているのでしょう。たいへんなことです。
しおかぜは宇和海を待って発車するので,この場合だけは遅れても接続に問題があるわけではありません。でも,しおかぜから新幹線に乗る人たちもいます。しわ寄せを先に送るわけにはいかないのでしょう。このときのしおかぜは,岡山駅にほぼ定刻に到着しました。
しおかぜはアンパンマン列車でした。高知県はやなせたかしさんの故郷です。