8月8日(金)三坂峠を越えて松山市街へ

三坂峠へんろ道
三坂峠へんろ道

左膝,最悪

 

 左膝の外側がひきつったように痛い。特に下り坂で左足のためができませんでした。坂を上るときには左足で上れない,下りるときには右足で下りられない,という状態になってしまいました。

 三坂峠の峠は国道です。それほどシビアなルートではありません。が,左足の痛みは峠まで我慢できませんでした。おもご旅館を出て1時間半,「明神パーク」で休憩しました。

 

ボットン便所

 

 便意を催してトイレに入りました。環境が変わるといつものようにはでません。2日目にしてちょっと便意を感じました。

峠道下りの途中,休憩所
峠道下りの途中,休憩所

 パークのトイレに入ると,今時珍しい(?)ボットン便所でした。そのことに大きな抵抗があるわけではありませんが,危うく大惨事になるところでした。

 靴を脱いで,ベルトを解いてズボンとパンツをいっしょに下ろします。そして,”ボットン便器”に跨ります。そのとき,ひやっとする出来事が起きました。便器に跨ろうとして,左足を左後方に回したときに,左足の靴が脱げかかって便器に落ちそうになりました。危うく落下という最悪の事態は回避できました。が,紙一重のタイミングで,ボットン便所に靴が落下していたかもしれませんでした。

 靴がボットン便所に落ちていたらその後はどうなっていたでしょうか。靴なしでは歩くことはできません。何とかして靴を拾い上げることができたでしょうか。どれぐらい深い”ボットン”かはよく分かりません。拾い上げられたとしてもクソまみれです。頑張ってクソをふかなければなりません。

 拾いあげられたらなばそれでもまだいいとしなければなりません。ウンと深くて,拾うことなど到底不可能だったら,・・・,その場で今回のへんろは打ち止めだったかもしれません。

 

膝には下りがきつい

 

 三坂峠からの下りのへんろ道は延々と続きます。膝には下りのショックが大きな痛手になります。山道を下りきってからも,アスファルトの急坂が長く続きます。左足の着地点を一歩一歩確認しながら歩きました。その痛さも大きなダメージですが,気を使い続けて歩くのは大きなストレスでした。

 下りが苦痛というのは実に大きなストレスです。上りのきつさは覚悟しています。

色っぽい案山子
色っぽい案山子

 どんなに急坂でも,どんなに長く続いてもいつかは上りの終わりは来ます。峠に達したら,あとは下るだけ,そこからは快適な進行が待っています。上る苦痛も下りの解放を夢見て我慢できます。その下りが苦痛だとしたら・・・。

 

色っぽい案山子

 

 ずいぶん下ったところに,美しい女性の案山子がありました。おじさんの案山子よりきれいなお姉さんの案山子の方が効き目があるのでしょう。カラスやズズメがおじさんとお姉さんをどうやって見分けるのでしょうか。案外,この案山子は,”ニンゲン”のため・・・?

 

また,降ったり止んだり

松山市窪野町の公園で
松山市窪野町の公園で

 偶然見つけた公園でレインポンチョを脱ぎました。それまで盛んに降っていたのでポンチョを身につけていましたが,雨宿りして様子をみることにしました。

 10分も様子をみていると状況は変わってきます。激しく降っていた雨があがりました。

 

 古ならザーッとしっかり降ってくれた方が,ずっといい。レインポンチョを着っぱなしで歩けるからです。中途半端な雨降りがいちばん困ります。

 ① レインポンチョを着て歩く。

 ② ザックにポンチョをかぶせて歩く。

 ③ ポンチョを手に持って歩く。

 ④ ポンチョはザックにしまい込んで歩く。

 この4つのスタイルを使い分けて歩きました。たいへん面倒です。

46番「浄瑠璃寺」
46番「浄瑠璃寺」

 

冷水サービス

 

 浄瑠璃寺の境内には,お接待でウォータークーラーが設置してありました。たいへん有り難かったのですが,タイミングとしては最悪でした。実は,浄瑠璃寺の門前の自販機で冷たい麦茶を買ったばかりだったのです。一寸先は闇,といえば大袈裟ですが,先のことは誰にも分かりません。

 しかも,納経を済ませると,

「お接待します。冷たいお茶がいいですか? あたたかいお茶にしますか? 」

 お庫裏(?)さんにそう声をかけていただきました。いきなりのことだったのでわたしはちょっと戸惑ってしまいました。なぜか頭が混乱したまま,

「じゃ,冷たいお茶を・・・」

 そう答えてしまいました。

 直前に買った麦茶,境内にある冷水サービス,その存在を思い出せば,明らかな選択ミスです。しかも,長時間雨の中を歩いてきて,体はどちらかといえば冷え込んでいました。

 自分のミスはさておき,冷たいお茶とフルーツゼリーをお接待していただき,感謝しています。

 

193回目のおへんろ

 

 47番「八坂寺」を出ると,また雨足が強くなってきて,レインポンチョ①の体制で歩くことになってしまいました。へんろ道沿いにある「札始大師堂」というところまで来ると,お遍路さんが雨宿りしていました。

「雨宿りですか」

「おうよ,台風,来てるからな。しかたがないな」

48番「西林寺」にて 193回目を回っているおじさん
48番「西林寺」にて 193回目を回っているおじさん

 気さくなおへんろさんでした。今回のへんろで初めて声を交わしたおじさんです。年は70近いと言っていましたが,詳しいことはわかりません。びっくりしたのは,今回が193回目のへんろだということです。

 以前は先達もやっていたそうです。でも今はもうやめてしまったとのこと。先達さんはお金を取ってやっている人も多いそうですが,おじさんは「わたしは金はとらんかった」と言っていました。先達さんがお金をもらっているなんて,わたしは知りませんでした。道案内だけでなく,宿をとったり,キップの手配などもするそうで,何だか旅行社のようだと思いました。

「一年のうちほとんどはへんろに出てるよ。家に帰って,2日しかいなかったこともある」

 結婚してないけど2号さんがいる,と何だかよく分からないことを言っていました。その2号さんが,

「淋しいから,もっと家にいて」

 そんなことを言うと,色っぽい話もしてくれました。大阪でカラオケ店を4件持っている,結構裕福な社長さんのようです。

「今日は2時から歩いている。夜寝ないで歩くこともあるよ」

 暗いときの山道は怖いから,三坂峠は国道を下りてきたそうです。深夜の山道で怪我をしたらアウトです。また,マムシも怖いそうです。

レインポンチョ姿 50番「繁多寺」
レインポンチョ姿 50番「繁多寺」

 その後,このおじさんとは札所で何回もあって話をすることができました。51番「石手寺」の後はわたしの今日の宿,松山ユースホステルをいっしょに探してくれました。気のいい,親切な人でした。

 おじさんは,札所へは行くけれど納経はしていません。以前はしていたけれど,今はお賽銭だけにしている,坊主の金儲け主義は大嫌いだと言っていました。同感です。永代供養とかお施餓鬼だとか,なんだかんだでお金をふんだくる”お寺さん”はわたしも大嫌いです。

 わたしが愛知県から来たというと,

「名古屋から来ていた女性の自殺を思いとどまらせたことがある」

 サスペンスミステリーのような話もしてくれました。本当かしらと眉につばをつけながら聞いていました。おじさんはいい人ですけれど,調子のいいところもあるような機がしました。

 

愛媛は高知や徳島に比べて幸せ

 

 札始大師堂には193回目のおへんろさんともうひとり,地元のおじさんが雨宿りしていました。その地元おじさんの話です。

 愛媛は石鎚山に守られている。台風は石槌山の向こう,つまり高知や徳島に大きな被害をもたらすけれど,こっちはほとんど被害がない。そんな話でした。

 そういえば,今度の台風11号もどうやら山をこえて瀬戸内地方には来ないで,高知・徳島の方に上陸しそうです。石鎚山の威力は伊達ではないようです。

「本当に愛媛は自然災害のない,いいところです。それに比べて,高知や徳島は気の毒」

 おじさんは実感を込めてそう言いました。

 

無愛想な納経所

 

 51番「石手寺」の納経所です。

どしゃ降りの51番「石手寺」
どしゃ降りの51番「石手寺」

 納経帳をお願いしたら,オッと言ったきり無言で,しかも隣の同僚と内輪の話を続けます。わたしの方を見ようとしません。そして,ゆっくり作務衣を着出しました。作務衣を着るのがしきたりなのかもしれませんが,それならずっと着ているのが普通だと思います。その間もずっと隣のお坊さんと話をしています。

 納経帳を書いている間も無言で,機械的に片付け仕事をしているような印象を持たされました。

 納経代金を置こうとすると,「納経料は手渡しで」という張り紙が目に入りました。心を込めてていねいに,という心だと思いますが,書いているお坊さんの態度と言わんとしていることの違いに鼻白むような思いでした。

 石手寺は大きなお寺ですが,あんまり感じのいいお寺ではないような気がします。哀しみの涙ということではないでしょうが,参拝中に大粒の雨が勢いよく落ちてきました。

 

松山ユースホステル

 

 ユースホステルに泊まるのは初めてで,ユース方式というのがよく分からずに戸惑いました。

クツ乾燥機
クツ乾燥機

 一言で言うと,「多くのことがセルフサービス」ということでしょうか。慣なれれば上手に活用できると思いました。

 靴乾燥機というものがあるのを始めて知りました。熱風を効率よく靴の中に置くって乾かします。2時間ほど乾燥機にかけておいたら,中もずぶ濡れだった靴はすっかり乾きました。

 朝,気持ちのいい靴でスタートできるというのはたいへんうれしいことです。この乾燥機のおかげで一気に気持ちが明るくなりました。ただし,使用料は100円でした。

 

玄米飯,麦飯,白米飯

玄米飯
玄米飯

 食事は玄米,麦,白米の3種類のご飯を選ぶことができました。セルフですから,全部食べることもできます。わたしは少しずつ,全部食べました。玄米も麦も上手に味付けがしてあって,おいしく食べることができました。たまにはこういうご飯もいいものです。

 

 

 

本日の歩行距離 34.2km