8月13日(木)

南禅堂
南禅堂

朝食とへんろ

 

 宿の朝食は早くても6:00,真夏は暑くなる前に歩きたいへんろにとってはちょっと遅い。5:00頃から明るくなってくるので,歩き始めるのはその頃がいい。宿で朝食をとるのはそれなりの理由がある場合を除いて避けた方がいいように思う。

 5:00に出立。コンビニでおにぎりとお茶を買い,朝食をとりながら歩いた。ところが直後に「すき家」を発見。牛丼330円はおいしかった。冷房がひどく効いていてかいた汗で冷たくなってきてしまったのはちょっとした困りものだったが。

 「すき家」って,こんな時間に初めて入ったのだが,ひとりぼっちで切り盛りしているんだね。それも,大学生ぐらいの若者がひとり。当然のことながら今話題の派遣のバイトでしょう。こういう人たちで「便利な日本」の状況が維持されており,だれしもがその恩恵に浴しているということは絶対に否定できないな,と思った。

 

お遍路無料休憩所「神南堂」

 

 建設会社の庭の一角に作られた休憩所。隣に五右衛門風呂が設置してあり,入浴と宿泊のお接待をやっているそうだ。

 神南堂blog http://kannando.blog89.fc2.com/

 

 

南禅堂の五右衛門風呂
南禅堂の五右衛門風呂

 

神南堂の五右衛門風呂

 

 私の小さい頃私の家の風呂は五右衛門風呂だった。蓋(?)の上に乗っかってそのままずぶずぶと沈んでい入る。桶のまわりを持って足を上げ,蓋を浮かせたり沈めたりして遊びながら入った思い出がよみがえってきた。

 今回の区切りへんろのルート上はおへんろさん用の休憩所とか宿泊所が多かったように思う。愛媛県の人たちの温かい心遣いの表れでしょう。

小田川 内子町
小田川 内子町

内子のコンビニで出会った自転車へんろのおじさん

 

 広島から来たそうだ。自転車は折りたためるもので,袋に入れて担いできた,そうすれば,列車は手荷物扱いになり無料,つまり自分の乗車賃だけで移動できるそうである。88カ所だけなら,自転車で12日あれば回れるけれど,今回は別格も回っているのでたいへんらしい。

 自転車も平坦な道なら快適だろうが,へんろ道はとても無理だし,上り坂が延々と続く久万高原のような所はたいへんだろう。21番「太龍寺」へ至るへんろ道を自転車を途中で投げ出して歩いている人を見たことがある。道ばたに自転車が放ってあったのだが,そこまでは担いできたのだろう。こうなると快適な自転車も邪魔物にしかならない。

 野宿ではテントで泊まるそうだ。ただ,四阿などの屋根のあるなかにテントを張らないと,朝夜露や雨に濡れてテントがたためず苦労するそうだ。そういう場所を探すのがなかなかたいへんらしい。

 四阿の中にテントを張るのは無駄のような気もしたが,そこまでは詳しく聞けなかった。

大瀬付近
大瀬付近

 

くもり,雨,くもり,くもり,雨

 

 天気がぱっとしない。ただ真夏のへんろにはくもりは最適である。雨も小雨程度なら適度に体を冷やしてくれるので心地よい。菅笠が直接当たると気分が悪い顔面や頭部への打撃を防いでくれるし,どうせ汗でぬれてしまう白装束は,雨というさわやかな水分の方が数段気持ちがよい。

 いつも思うが,菅笠の機能は驚くべきである。日差しを防いでくれるだけでなく風を通すので十分涼しいし,雨が降れば結構な雨もちゃんと撃退してくれる。しかも普通のコウモリ傘と違って,両手が空いているので歩くのに負担になることがほとんどない。実に全天候型アイテムなのである。

 「合羽はやっぱり要らないな。」今回もこの思いを強くした。

 

般若心経

 

 道ばたのお地蔵さんに,今回初めての般若心経を納めた。久しぶりなので・・・ということにしておくが,上手に読経できなかった。なかなか難しいものである。気に入った読経ができることはまだ,あまりない。

 

 

 

気を遣わせちゃったかな

 

 大瀬の酒屋の軒下に座って昼食のパンを食べた。クリームパンとあんパンである。おいしかった。「給食以外にパンを食べない」と公言しているほどのパン嫌いなのだが,ちょっとした異変が進行しているのかもしれない。好物が少しずつ変わってきているためなのか,へんろ道中のように疲れているときは甘いものを体が欲するようになるためなのか,今回のへんろではパンやかき氷をたいへんおいしく感じた。

 アクエリアスを大量に買いに来た若者から1本お接待でいただいた。自販機の前に陣取ってパンを食べていたのだが,この若者に余計なプレッシャーを与えたのかもしれない。

「あっ,おへんろさんだ。どうしよう。無視して自分だけ買って去る・・・・・・,そんなわけにはいかない。しょうがない,1本与えておけば,この状況としては,丸く収まる。」そんな風に若者が考えた,なんて考えるのは不遜であるが,そうでないともいいきれない。

小田川沿いの民家
小田川沿いの民家

 

みかん畑

 

 愛媛,伊予といえばみかん。でも,昨日も今日もみかん畑を見ない。あるのは柿,ブドウ,梨,そして自然に成長しているのか栗。梨の直売場もへんろ休憩所の前にあった。伊予みかんはどこにいっちゃったのだろうか。

 どちらにしても山間部は米作りが難しい土地が多いのだろう。道ばたの民家から上を見上げていくと,山の中腹に点々と民家が建てられているのが見える。行き来するのもたいへんな坂道の上に民家がある。水ひとつを確保するのも苦労しそうな場所である。「人間って,どこにでも住んでいるなぁ」と,複雑な思いをした。

道の駅「小田の郷せせらぎ」
道の駅「小田の郷せせらぎ」

 

横浜から来たO君

 

 道の駅でO君と出会った。このあと翌日の45番「岩屋寺」を打ち終わるまで,何回か一緒になった。26歳の若者で,半袖半ズボン,2日に1回は野宿をするという元気者である。私なんか,20代の時にはこんなこと微塵も考えなかった。

「今回は飛行機で羽田から松山空港に来た。」

「すぐそこの皮で,地元のおっちゃんに声をかけられて,釣りをしていた。4時間もしていたら,この先の峠を越えられなくなった。久万高原まで行く予定だった。」

「道の駅で聞いたらこの先の宿で泊めてくれるって。」

「地元の人に聞くと,いろいろ教えてくれますよ。」

 私にはこういう余裕がない。予定が狂うことに対する恐怖というか,つねにお膳立てしておいて初めて安心する,という行動様式が身についてしまっているのだろう。予期せぬことが起こったときの動揺,その対処の方法の自信がない。

  歩くのは初めてだが,自転車で1周しているという,

「1周するのに17日かかりました。」

「歩くのはへんろ道に行けるから気持ちがいい。」

 

アリの行列

 

 12番「焼山寺」のふもとで泊まった「ふじや本家」と関係があるのだろうか。

 アリに進入された。座布団に眼をおろしたときに行列に気がついた。小さなアリが何匹も何匹も行儀よくこっちに向かっている。こういう状況は何十年来私の環境にはなかった。

「ど,どっ,とうして」後で考えれば,適切な対応がいくつかあったはずだが,このときは動揺した。

 布団の方に目を移すと,こちらにも別の行列が。

「ご主じーん,アリが,アリが,」インターフォンもあったが,階下に直接降りてご主人を捕まえに行った。

「ごめんなさいね,アリ用の殺虫剤はないんでね」といいながらご主人は,とりあえず持ってきた殺虫剤をおいて,タオルで床をこするようにしてアリの行列を押しつぶしだした。

「どっかに甘いものが,先の客が置いていったものがあるのかもしれんなぁ。」あらかたつぶしおわって,

「殺虫剤,置いておきますが,」といいながら,タオルも置いて厨房へ戻っていった。また来たら,つぶしなさいということですね。アリぐらい来ることは,日常のことなんだろう。

 アリぐらいでびびっていた自分が恥ずかしい,という思いが湧いてきた。この思いがたぶん正しい。