台風5号接近
台風は着実に高知・徳島に向かっているようです。徳島最接近は午後3時ごろか,そんな風に言われていました。
朝食の話題はもちろんそこです。
新宿さんは早々とリタイヤ宣言をしました。
「バスで徳島駅まで帰る」
昨日の焼山寺で思わぬ苦戦をし,クルマに乗ったことで緊張感が切れてしまったのかもしれません。おかみさんにバスの時刻を聞いていました。
わたしはとにかく徳島市街まで歩きたいと思っていました。
「今ならまだ歩ける。雨はどれだけ降ろうとかまわない。歩けないほど強い風が吹くと困るけど」
わたしは朝食が住んだらすぐ出発すると宣言しました。荷造りはすでにすんでいて,玄関先においてあります。風が強くならないうちに少しでも先に行きたいと思っていました。
清瀬くんもわたしと同じ気持ちでした。
「とりあえず街まで出れば何とかなるような気がします。台風で納経所がしまってるなんてことはないですよね。」
「それはないよ。納経所なんてただ座って待ってるだけだから,台風で難儀することなんてないでしょ」
清瀬くんも歩く気満々でした。
1kmでもいいから先へ,というのが歩きへんろ共通の思いです。
カメラをリュックに入れてしまったから本日は写真のデータがありません。
沈下橋の濁流や,風でたわむ竹林,水かさを増す川の流れ,わざと横にしてあるお大師坊や(札所の看板),水で溢れそうになった用水路などなど,写真に撮っておきたい場面がいっぱいありました。無理しても撮りたいという気持ちもありましたが,あきらめました。今日は歩くことに専念する。それに雨でカメラのデータが飛んでしまったら他日の写真もなくなってしまいます。
撮りたいところばっかりでしたが我慢しました。
※ 写真がないと,間の抜けたスタイルになってしまうので,別の日の写真を張り込むことにします。
雨対策をして出立
荷造りは朝食前にしました。すべての者をレジ袋に入れてリュックにしまいます。ウェストポーチに入れていたカメラや財布もリュックに入れました。ポーチには小銭とお札,キャッシュカード,水の入ったペットボトルだけを入れました。お札はビニールに包んで入れました。
レインコートを着ますが,ズボンのコートは持ってこなかったので下はずぶ濡れ覚悟です。上半身さえ濡れなければ何とかなるだろうと考えました。菅笠はビニールカバーをかぶせました。
菅笠はたいへん役に立ちました。顔がまったく雨にかからないのでその点はストレスなく歩けます。上半身のレインコートも威力を発揮しました。十分な保温に役立ったので体力が持ったと思っています。
沈下橋だからへんろ道は通れない
「沈下橋だからへんろ道は通れない。表の県道をまっすぐ行きなさい。時間的にはどっちもだいたい20分で変わりません」
宿を出るときおかみさんがそうアドバイスをしてくれました。案の定少し歩いたところで沈下橋の上を濁流が乗り越えて流れて行くのが見えました。
失敗したのは次のふたつ
第1はレインコートのズボンがなかったこと
ズボンはすぐにずぶ濡れになりました。そして1時間足らずで靴の中に水が入ってきました。ゴアテックス使用の靴なので外から雨が進入することはありません。が,ズボンがぐしょ濡れになれば上から入ってきます。上の口から入ってきたらコアテックスだろうが何だろうが関係ありません。
水が入りこんだらずぶずぶになるまでほんの数分です。靴の中はだんだんひどくなり,靴の中に水溜まりができているような状態になってしまいました。それでも回避方法はありません。そのまま歩きつづけました。多少歩きづらいけれども,大きく困ることはありません。
と思っていましたが,軽薄浅慮でした。
17番「井戸寺」の手前で右足の裏に鋭い痛みが走りました。そのときは理由が分かりません。足マメの痛みとは違います。もっと切れのいい痛みです。井戸寺で足の裏を見たら,足の裏の皮が500円玉ぐらいの大きさでズル剥けていました。
水につかった状態でながく歩きつづけていたので足の裏の皮がふやけて弱くなってしまったのです。そして井戸寺の手前でついに切れた,その痛みが走ったわけです。
靴の中を守ることの大切さを痛感しました。そのためには水の進入をできるだけ防がなければなりません。レインコートのズボンを必需品とするか,それともほかの方法で守るか,次回の課題です。
今回はどうしようもありません。そのまま徳島市佐古の宿まで歩きつづけました。痛い思いをしました。
第2はキャッシュカードをはだかでウェストポーチの小ポケットに入れていたこと
現金とカードを直接ポーチのポケットに入れて歩きました。お札はビニール袋で守りました。コインとカードは濡れても大丈夫と思い,そのままはだかで入れていました。
佐古の宿に入って荷物の整理をしていたときにキャッシュカードが少し折れ曲がっているのに気が付きました。カードの裏には「折れたり,曲がったり,強い磁気を受けたりすると使用できなくなります」とあります。少しだけれど明らかに曲がっています。おそらく,立ったり座ったりしたときに腹や足で強い圧迫を受けたのでしょう。
手で少しずつ曲がっているのを直しました。それでも完全には元通りになりません。宿からいちばん近いコンビニに行って確かめました。幸い使えたので本当にほっとしました。翌日郵便局に行って確かめればいいのですが,手数料を払っても早く確かめたいという気持ちになりました。
もし使えなかったらたいへんなことになります。現在持っている現金は10,000円しかありません。この日のホテル台は出せるとしても,名古屋まで帰る電車賃にはまったく足りません。カードでは切符が買えません。借りるあてもありません。
キャッシュカードに全面的な信頼をおいてはダメだということがわかりました。帰りの電車賃を常に確保しておくこと,これは次回の課題です。
今回役にたったもの
今までのへんろでも持っていましたがまったく使いませんでした。それがこの「防水パッド」です。今回活躍しました。
井戸寺でやぶれた足の裏の手当にちょうどいい大きさでした。しかもぴったり密着して剥がれません。皮が剥けた部分をしっかり包み込み,靴擦れによる痛みをずいぶん軽減してくれました。
もうひとつ役にたったものは「包帯」です。新しい菅笠の支えが額に当たる部分に巻きました。
形状がごつごつしていて額に当たっていたいので包帯を巻いてみました。痛みがまったくなくなり,密着感もよくなりました。
今までまったく使わなくても持っていたものです。思わぬところで役立ちました。
13番「大日寺」
6時20分に宿を出ておよそ3時間で大日寺に着きました。距離は11.1km,ほぼ下り道です。少し時間がかかりました。雨による,主に靴の中のずぶ濡れ状態が原因だと思われます。
ただ,雨だけならどんなに激しく降っても歩ける自信にもなりました。
風との闘いはこのあとから少しずつ本格化します。
遅く宿を出た清瀬くんが20分ほど遅れて到着しました。このあと後になったり先になったりで14番,15番,16番,17番の札所でいっしょになりました。最後になったのが徳島市佐古駅付近です。これを書いている今(8/15)は室戸を越えて高知に接近しているころでしょうか。
新宿さんは無事帰れたでしょうか。
「バスは全線止まっているようです。歩いている途中で1台もバスを見ませんでした」
わたしもバスが追い越していくのを注意していましたが,1台も見ませんでした。宿の人にしかるべき駅に送ってもらったかもしれません。
役に立たなかったもの
リュックサックカバー。
以前使っていたリュックサックのカバーを流用しました。以前のリュックとは形状が違うのでうまく装着できませんでしたが,少し工夫して装着できるようにしました。ところが実際使ってみると,雨がどんどん入りこんできてまったく用をなしませんでした。
リュックについてはサイドポケットも緩んで用をなさなくなりました。いつもはペットボトルを入れていたのですが,今回使ってみたら100mも歩かないうちにペットボトルが落ちてしまいました。
リュックの買い替え時かもしれません。
「よかったら,食べますか?」
15番「国分寺」でいっしょに休憩しているときに清瀬くんはそう言って,カロリーメイトを差し出しました。お礼を言って遠慮無くいただきました。さりげなく分かちあう言葉が言えるのは素敵なことです。わたしも分けてあげられる何かがあれば,と思いました。
「わたしの携行食はピーナッツですよ。ピーナッツは便利,歩きながらも食べられる。軽くて持ちもい。」
でも,ピーナッツをバラバラと差し出す気にはなりませんでした。
逆打ちのおへんろさん
16番「観音寺」の手前でした。逆から来るおへんろさんがいました。この時間が台風最接近だったのでしょうか,雨も風もそうとうひどくなってきました。風で飛ばされないように,傘を斜め下に向けて歩くしかありません。ほとんど道とへんろマークだけの視界でしたが,いきなり視界に飛び込んできたそのおへんろさんにはビックリしました。
リュックの荷物を前に回して合羽をその上から着ています。飛ばされないように両手で荷物を抱え込むようにして早足で歩いてきます。必死の形相です。まさに台風と闘っているという姿です。
「観音寺はこっちですよね」と聞いてみました。
「いや,わたしは逆に行ってるんで」
まちがいを注意されたと思ったんでしょう。もう一度聞き直したら,きちんと教えてくれました。それにしても,この台風の中を歩いている人がほかにもいるんだという事実がわたしを奮い立たせます。「清瀬くんがいっしょに歩いている」ことも大きな力になっています。
心強かった清瀬くん
嵐の中でもひょいひょい歩く清瀬くんにはとてもついていけません。いったい彼にはこれが修行になっているんだろうかと疑ってみたくなります。ずぶ濡れになりだんだん重くなる足を引きずるようにして歩きます。そんなとき彼の姿を思うと心強くなります。
「明日の宿をどうしようかと思ってるんです」
「わたしなら20番ふもとの金子や。そして次の日は22番まで一気に行って山茶花かな。このあたりはあまり宿の選択肢がない」
「いや,明日までに20番を越えられないかと。台風でもちゃんと歩けることも分かったし」
「・・・・・・(ちょっと絶句)」
鶴林寺登山までやってしまおうなどと考えたことがありません。
最後に会ったのは宿に着く寸前の佐古駅付近です。自然にいっしょに歩くことになりましたが,無理をしないと着いていけません。「宿の場所を探すから」と言ってあえて別れました。
清瀬くんガンバレ,測り知れない力でもう高知市を越えているかもしれません。